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米国輸出管理改革法-トランプ政権下における輸出管理規制強化が始まった

1.はじめに-トランプ政権の通商政策

トランプ政権はグローバリズムを拒絶し米国第一主義(America First Policy)の通商政策を掲げ、国家安全保障の支援、米国経済の強化、米通商法のアグレッシブな執行などを通商政策の方針としており、昨年8月13日に成立した「2019年会計年度の国防授権法(※1)」の中に、Title XVII–Review of Foreign Investment and Export Controls(第17編 対米外国投資および輸出管理の審査)が盛り込まれた。

このTitle XVIIはSubtitle–AとSubtitle–Bから成る。Subtitle–A のタイトルは Commission on Foreign Investment in the United States(CFIUS. 対米外国投資委員会)だが、Section 1701により、Subtitle–A内の条項を引用する場合はForeign Investment Risk Review Modernization Act of 2018(2018年外国投資リスク審査近代化法。以下、FIRRMA. 通称、ファーマ)と呼ぶことになっている。Title17は上記トランプ政権の通商政策の方針である国家安全保障、米国企業の国際競争力の確保、米国企業の先端技術の保護などを目的としている。

同法は、米通商法301条(※2)

基づく対中制裁などの米中貿易戦争の一環として制定され中国条項もあるが、基本的には特定の国をターゲットとする法律ではなく、日本を含む全ての国に適用されること、および、この外国企業による投資を規制する動きは米国に限ったことではなく、カナダや欧州各国でも同様な動きがあることに注意を要する。

Title 17中の外国企業の米国への投資規制(Subtitle Aの対米外国投資委員会。引用する場合はFIRRMA)については他に記事があるので、本稿では、Subtitle B–Export Control Reform(Section1741により、Subtitle B内の条項を引用する場合はExport Control Reform Act(ECRA. 輸出管理改革法)と呼ぶことになっているので、本稿でも以下、ECRAと略称で呼ぶ)に焦点を絞って解説する。

2.トランプ政権以前の米国の輸出管理制度

日本企業の皆さんが日々取り組んでいる米商務省(DOC)の産業安全保障局(以下、BIS(※3))のEAR(輸出管理規則)はEAA(1979年輸出管理法。The Export Administration Act)に基づきBISにより制定されたが、EAAは1994年に失効し、その後何回かの期間延長措置を経て2001年8月に失効している。

その後は同月に発布されたジョージ W. ブッシュ大統領による大統領令(大統領による国家緊急事態宣言と国際緊急経済権限法(IEEPA)の発動に基づく輸出管理規制の延長(Executive order 13222 of August 17, 2001; Continuation of Export Control Regulation.)により米国の輸出管理規制が運用されている。

トランプ政権も2017年8月15日の通知(Notice of August 15, 2017: Continuation of the National Emergency with Report to Export Control Regulations.で国家緊急事態宣言を行い、上記2001年8月の大統領令を1年間延長し、更に2018年8月17日に上記「国際緊急経済権限法」(IEEPA. the International Emergency Economic Powers Act)に基づき同様の大統領令(Executive Order 13222.を発布し、現時点(2019年1月)で効力を保持している。

3.「2018年輸出管理改革法」(ECRA)の輸出規制強化およびその後の動き

(1)規制内容

ECRAはEARに法的権限を付与すると共に、現行の運用の法制化という側面があるが、特に「最先端且つ基盤的な技術」(emerging and foundational technologies)につき重要な規制を導入し、また、輸出許可手続につき「米国の防衛産業の基盤に深刻な影響」(significantly negative impact on the United States defense industrial base)をもたらすかに重点を置くことにより、米国の輸出管理制度に大きな変化をもたらした。

ECRA(Section 1758)は、商務省、国防総省、エネルギー省、国務省およびその他の政府機関に対して、米国の「国家安全保障に重要」(essential to the national security)な「最先端且つ基盤的な技術」(emerging and foundational technologies)を認定するための定期的・継続的手続を調整する義務を負わせている。

また、ECRAは、これらの政府機関に対して、180日毎に、対米外国投資委員会(CFIUS. Committee on Foreign Investment in the United States)と議会に対して報告書を提出することを要求する。

ECRAは「国家安全保障に重要」(essential to the national security)や「最先端且つ基盤的な技術」(emerging and foundational technologies)という重要な用語を定義していない。そこで、BISはECRAに基づき、2018年11月19日、規制制定案事前通知(an Advance Notice of Proposed Rulemaking. 以下、ANPRM)の告示により、「最先端技術」(emerging technologies)についてその定義、認定基準、特定のための情報源、特定方法などにつき、30日間のパブリック・コメント手続きを実施した。(※4)

BISはANPRMにおいて、同機関が「最先端技術」と考える以下の14の技術カテゴリーを挙げ、パブコメ受付を行った。

  1. バイオ技術
  2. AIおよび自働学習技術
  3. 測位(位置、ナビおよび時間)技術
  4. マイクロプロセッサー技術
  5. 先進的コンピュータ技術
  6. データ分析技術
  7. 量子情報およびセンシング技術
  8. ロジスティック技術
  9. 付加製造(3Dプリンティングなど)
  10. ロボティクス
  11. ブレイン・コンピュータ(マシーン)・インターフェイス
  12. 極超音速
  13. 先進的材料技術
  14. 先進的監視技術

(2)制裁および執行権限の強化

ECRA(Section1760(※5))は、EAR違反の民事制裁金(行政罰)につき、一件当たり$250,000を$300,000に引き上げ、この金額と取引価格の2倍の金額といずれか多額の方とした。この民事制裁金はこれまで通り輸出特権の剥奪を含む。

一方、刑事責任はこれまで通りEAR違反一件当たり罰金$1Mで、個人に対して20年以下の禁固刑であり、併科ができる

また、ECRA(Section 1761)は、法令に準拠してだが、BISに米国内のみならず、米国外での調査権限を与えたことに注意を要する。

まとめ–企業として行うべきこと

トランプ政権が昨年8月に国防授権法(NDDA(National Defense Authorization Act.))の一部としてFIRRMAとECRAを成立させたのは、国防上つまり安全保障上懸念のある先端技術が米国から海外に流出することを、対米直接投資と米国からの技術輸出との両面で規制することによって、防止することを狙っている。

確かに今回の米国の規制強化は中国を念頭に置き、中国系企業や中国系投資ファンドをターゲットとしているが、日本企業を含む他の国の企業にも適用される。輸出規制は日本企業も影響を受け、特に上記14の技術を扱う企業がこれらの技術を中国企業などに移転する場合、BISの許可が必要となる。この点、今年(2019年)前半にはBISが昨年末のパブコメを踏まえ最終的な技術分野を公表するであろうことから、注意を要する。

また、BISは、今後、「基盤的な技術」(foundational technologies)などについてもパブコメの受付手続を行い、「最先端技術」(emerging technologies)、「基盤的な技術」(foundational technologies)や「国家安全保障に重要」(essential to the national security)などの用語の定義を含む規則を制定するであろうことから、常にアンテナを張って注意しておかなければならない。

最後に、法律制定後の具体的な制度設計は行政府(トランプ政権)に任された。国防(安全保障)の面だけでなく、米国企業の規制対応負担や研究開発スピードの遅延などの米国経済への一般的な影響の他、昨年(2018年)の中国通信機器大手のZTEに対する輸出特権(export privilege)

の否認のケースでは、ZTEの通信基地局の製造のため極めて多くの米国企業がその製品を直接・間接に輸出しており取引停止となると米国経済への大きな打撃となるため、他の共和党議員らの反対を押し切りトランプ政権が取引停止を条件付きで解除する判断を行ったように、米国経済への配慮が必要であり、今後どのような詳細設計と運用がなされるか予断を許さない。

 

※1H.R. 5515 John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019. 共和党内でのトランプ大統領の政敵であり法案成立前に亡くなったJohn S. McCain議員の名前が付けられた。
※2外国による不公正な貿易慣行に対し、議会の承認なしに大統領権限で制裁措置ができる条項。日米貿易摩擦が問題化した80年代後半のレーガン政権下で報復措置が盛り込まれたが、世界貿易機構(WTO)が発足した95年以降は協定違反のおそれがあり発動されなかった。しかし、昨年2018年トランプ大統領が制裁措置を発動した。
※3
Bureau of Industry and Security. 国家安全保障と高度産業技術に関する問題を扱う商務省の機関で、米国の輸出の拡大と大量破壊兵器の拡散防止の役割を担い、CCL(the Commerce Control List)を含むEAR(the Export Administration Regulations)を定める。
※4
このパブコメの期間はその後2019年1月10まで延長。「基盤的な技術」(foundational technologies)については別途実施予定。
※5Subtitle BはPart IとPart IIからなり、Part I–Authority and Administration of Controlを引用する場合、Section 1751により、Export Control Act of 2018と引用することになっているため、ECRA(Section 1761)はECA 1761と引用される。

斜木裕二
弁護士斜木 裕二
国際法律事務所、大手メーカー等の法務責任者を経て、2018年ベリーベスト法律事務所に入所。国際カルテルなどの競争法、国際・国内商取引一般、M&A, JV会社設立等の国際投資案件、グローバルでのグループ子会社の法務体制やコンプライアンス体制、危機管理体制の構築などを手掛る。
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