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表明保証に関する裁判例から考えるM&A訴訟のリスク回避の方法

2019年9月25日
表明保証に関する裁判例から考えるM&A訴訟のリスク回避の方法

1.はじめに

M&Aの失敗で多い例として、対象会社の情報が売主の事前の説明や提出された資料と異なることが挙げられます。

例えば、対象会社の財務諸表に粉飾決算が行われていたり、対象会社が実は破産しかけているのに、そのことについて、売主から一切説明がなされなかったりと、問題は多岐に渡ります。
このようにM&Aを実施した後で、対象会社の問題に気づき、不当に高額な金額でM&Aをしてしまった場合、買主は売主に対して損害賠償請求をし、M&Aで被った損害を填補しようとすることが一般的です。
要は、対象会社にもともと問題があったのですから、適切な売却価格は実際の売却価格より低額であったはずなので、賠償によってその適切な売却価格と実際の売却価格の差額を填補するのが公平であると考えるわけです。

このような考えを押し進めると、損害が生じても後から填補賠償すれば足りるので、事前のデューデリジェンス(以下、「DD」といいます。)に多額のコストをかけなくてもよいのではないか、極論を言えば、事前のDDは不要ではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、DDを含む事前交渉が長期化した結果、取引機会を喪失する可能性があるという問題や売主との独占交渉権の期限経過のリスクがあります。
よって、十分なDDを実施せず、後に対象会社にM&A時には売主から説明のなかった損害が発覚した場合は損害賠償請求をして、損害を填補するという経営判断もあり得ると思います。

しかし、過去の裁判例を見ると、必ずしも事後的な損害賠償請求が全て認められるわけではありません。
そのため、買主の立場から、M&Aに失敗しても事後的に損害賠償請求をすれば足りるという考え方には、リスクがあることを認識して頂きたいと思います。
今回は、M&A契約において事後的な損害賠償責任を認める代表的な規定である表明保証についてご紹介いたします。

2.表明保証

表明保証

(1)概要

表明保証とは、契約の一方当事者が他方当事者に対して、当該契約の対象に関する事実問題又は法律関係について、ある時点において、その真実性及び正確性を表明し、保証することをいいます。
M&Aが活発に行われたアメリカの契約実務から規定されるようになり、英米法におけるRepresentations and Warrantiesの訳語です。
日本でM&Aが活発になった頃に、アメリカのM&Aの契約実務が輸入され、現在において、日本での一般的なM&Aに用いられる条項です。

表明保証条項が活用される典型的な場面として以下のような例が挙げられます。
M&A契約締結時に、買主が、売主に対象会社の財務に関する事実が真実であり正確であることを表明させる、すなわち、表明保証をさせます。
そして、M&A契約の締結後に対象会社の財務に関する事実が契約締結時に表明された内容と異なることが発覚し、本来対象会社の株式評価額がより低く算定されるべきであった場合、売主は表明保証義務違反を根拠に株式譲渡等の代金の差額分を填補するために損害賠償請求をします。

(2)表明保証の限界

では、買主は表明保証した事項と異なる事実を発見した場合、常に表明保証義務違反に基づき損害賠償請求が認められるのでしょうか。
仮に常に損害賠償請求が認められるのであれば、DDを実施しなくても、M&A後に表明保証した事項と異なる事実が生じた場合に、売主に損害賠償請求をして、損失分を填補すれば足りると考える方もいらっしゃるかと思います。

しかし、すでに指摘しました通り、常に損害賠償請求ができるとは限りません。
この点について判断したアルコ事件(東京地判平成18年1月17日 判タ1230号206頁)をご紹介します。

3.表明保証責任について契約書とは異なる要件を定立した裁判例(アルコ事件)

表明保証責任について契約書とは異なる要件を定立した裁判例(アルコ事件)

(1)事案の概要

原告Xは消費者金融会社Aの企業買収を検討し、Aの全株式を取得するべく、Aに対するDDを実施し、被告Yらとの間でAの全株式の譲渡契約を締結しました。
その際、Aの株式は簿価純資産法で算定したところ、Yらは、Xに提供したAの財務諸表が正確であることを表明し、これを保証する旨の規定を定めました。
Aの買収後、Aの有する和解債権の処理について、実際は元本の入金があったにも関わらず、貸借対照表上、利息に入金を計上し、元本についての貸倒引当金を計上していなかった事実が発覚しました。
これは、すなわち、本来計上すべきであった貸倒引当金の分だけAの資産を水増しし、帳簿上のAの評価を高く見せるものでした。
これは、Aの買収時、Aの株式は、簿価純資産法で評価したため、利息に充当された額の分だけ、Aの株式を実際よりも高く評価したことになります。
そこで、XはYらに対し、Aが元本の分を利息に計上した資料をYらが開示しなかったことが表明保証義務に違反するとして、不当に資産計上された利息充当額等3憶529万余円の損害賠償請求を求めた事案でした。

(2)判決文から考える訴訟リスク回避の方法

判決文では、Xが契約成立時に表明保証義務違反の対象となったAの財務諸表の事項に関して悪意でないとした上で、Xにおいて、Yらが「本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認めることはできない」としてXの請求を認めました。
言い換えれば、裁判所は、表明保証違反が認められるのは買主に善意かつ無重過失が必要であると判旨しました。
また、裁判所は、Yの表明保証義務違反について、Xの善意かつ無重過失を、DDを含めた交渉段階全体を検討して判断しました。
この善意かつ無重過失という要件については、契約段階では問題となっておらず、契約書にも記載されていなかったにもかかわらず、裁判上では必要な要件であるとされました。

アルコ事件では、結論として、Xは善意かつ無重過失として損害賠償請求を認めています。
もっとも、逆に言えば、買主がM&Aを実行時に悪意、又は重過失であると判断された場合、賠償額が制限されることになります。
すなわち、契約段階での表明保証条項が必ずしもそのまま適用されるわけではないことを前提としています。
そのため、買主は、M&Aを実行後に問題が生じた場合は売主に損害賠償請求をして補填すれば足りると考えて、M&Aをすると、後に裁判になった場合、多少調査すれば判明したことを理由に損害賠償請求が制限されてしまう可能性があります。

一方で、アルコ事件では、Yが悪意又は重過失の主張をしたので、それに対し判断があったに過ぎず、アルコ事件特有の要件で、一般的に表明保証義務違反について善意かつ無重過失の要件が要求されるわけではないと理解することも可能でしょう。
実際に、アルコ事件以降の裁判例で、買主の善意かつ無重過失を判断しなかったものもあります。
もっとも、裁判になった場合は、売主はアルコ事件を根拠にして買主が悪意又は重過失の主張をすることは容易に想定できますので、M&Aの際は、表明保証だけに頼らず、DDを実施し、M&A後のリスクをなるべく回避することをお勧めいたします。
事後的な損害賠償請求をしたとしても、売主が事実を争ってくれば、訴訟にならざるを得ず、裁判費用及び時間がかかってしまいます。つまり、DD
を実施することは、訴訟リスクを回避することでもあります。

(3)アルコ事件で要求された善意かつ無重過失の要件を除外する規定は有効か

契約書に表明保証義務違反について買主が悪意又は重過失があっても、損害賠償請求ができる旨の条項を規定しておくことが考えられます。
確かに、このような規定があると、事後的に損害賠償請求をした場合、契約書通りに解釈すれば、買主が悪意又は重過失であっても、買主に対して損害賠償請求をすることができます。

しかしながら、裁判になった場合、裁判所が、上記のような合意を契約書の記載通りに有効と認めるかどうかは不明です。
そもそも、裁判所は、アルコ事件のように契約書にない要件を定立したことがあるので、上記のような規定が限定的に解釈される場合や、無効とされる場合がないとは言い切れません。
つまり、上記のような規定を入れたところで、訴訟の見通しが明確になるわけではありません。
万が一、無効と判断された場合は、損害賠償請求が制限されるか、又はそもそも認められない可能性があります。
そのため、M&Aの契約書に上記のような規定があったとしても、必ずしも損害賠償請求ができるとは限りません。

このように、見通しが不明確な訴訟を回避するためにも、契約の段階でDDを十分に実施することをお勧めいたします。

4.売主の客観的な情報開示の有無から表明保証責任の有無を判断した裁判例

3.で挙げた裁判例とは異なり、善意かつ無重過失という要件を定立しなかったものの、交渉過程で、売主の開示した情報が客観的に正確なものであるかどうか、という観点から表明保証責任を判断した下記の裁判例(東京地判平成23年4月19日)があります。

(1)事案の概要

原告Xは、被告YからYの子会社Bの発行済全株式を譲り受けました(以下、「本件株式譲渡」といいます。)。
Yは、Xに対し、この株式譲渡に先立ち、Bの事業、経営等に重大な悪影響を及ぼす可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないこと等を「重要な点において」正確であることを表明保証しました(以下、「本件表明保証」といいます。)。
Xはこれを前提条件として本件株式譲渡を行いましたが、本件株式譲渡の後、Bの製造した機械に係る売買契約(以下、「本件売買契約」といいます。)について債務不履行が生じており、この本件売買契約が解除されました。
Xは、この本件売買契約について債務不履行が生じていたことをYは告知しなかったなど、事実と異なる説明をしたことについて本件表明保証に違反したことを理由に、損害賠償を求めた事案でした。

(2)判決文について

判決文では、Yの表明保証が重要な点で正確かどうかは、「原告が本件契約を実行するか否かを的確に判断するために必要となる本件機械売買契約に係る客観的情報が正確に提供されていたか否かという観点から判断すべき」とし、Xの請求を認めませんでした。

M&A実行時にはどのような影響があるのでしょうか。

(3)判決文から考える訴訟リスク回避の方法

Yの表明保証が重要な点で正確かどうかは、XがM&Aを実行するか否かを的確に判断するために必要となる本件売買契約の客観的情報が正確なものかどうか、という観点から判断すべきである旨判示しています。
これは、言い換えれば、売主は対象会社の客観的に正確な情報を開示しておけば、表明保証による責任を負う可能性はほとんどなくなることになります。一方、買主はその情報を基にM&Aを実行するかの判断をすることになり、後に対象会社に瑕疵があったとしても、売主から客観的で正確な情報が提供されており、その情報から予見しうる瑕疵であれば、買主がリスクを負う可能性が生じます。

実際に、対象会社側の説明や業績予測等を買収判断の基礎としてよいかは、売主がDDの中で入手する他の様々な資料との整合性等から精査・分析しなければならず、M&Aの交渉過程で判断するのは困難が伴います。

特に、これまでの裁判例を基に訴訟リスクの判断をする場合は、M&Aに精通した弁護士の意見を聞くことをお勧めいたします。

5.まとめ

これまで述べてきましたように、確かに、M&Aの実行後に対象会社に表明保証に反する事実が発覚し、買主に損害が発生した場合、表明保証義務違反に基づいて売主に損害賠償請求を求めることは可能ではあります。
しかし、表明保証責任を巡る過去の裁判例では契約書には規定されていない「善意かつ無重過失」という要件を定立する裁判例や表明保証責任の範囲を相当程度限定して解釈した裁判例など、契約書ではリスクを完全には回避できない問題が多くあります。
また、裁判例も統一的に考えるのは困難な状況にあるともいえます。

このような状況ですので、M&A後のリスクを最小限にするために対象会社の価値やリスクを調査するDDを実施することが、訴訟リスクを回避するには一番現実的な手段ということができます。
M&A
を実施する際は、表明保証に過度な期待をせず、DDを実施することをお勧めいたします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士池内 満
法政大学法学部卒業・首都大学東京社会科学研究科(法科大学院)修了。ベリーベスト法律事務所に入所後、契約書レビュー等の一般企業法務や債権回収等の一般民事事件・労働事件・家事事件と業務内容を問わず、予防法務及び紛争解決に広く関与。国際紛争にも関心を持っています。訴訟リスクに対するアドバイスの他、依頼者様のビジネスの内容や行政への対応、取引先等との関係も踏まえ、将来を予測した総合的なアドバイスをするよう心掛けています。
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