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深圳OTCマーケット―前海株式取引センターに登録するガイド
1.中国資本市場の概要
中国の資本市場は、取引所市場及び店頭市場から構成されています。
取引所市場はメインボード市場(メイン板とも言います。中国語:主板市場)や二板市場(創業ボード市場とも言います。)に分けられています。
店頭市場は三板市場(全国中小企業株式譲渡システム)や四板市場(地域性株式取引センター)に分けられています。
その内、地域性株式取引センターは、地方政府の認可を経て設立され、地方政府金融事務室の管轄に属し、地域でのみ流通する株式及び債権の店頭市場であり、主に地方の零細企業向けの融資機能を有しています。
地域性株式取引センターは、機関投資家及び特定の個人投資家のみを対象とした店頭市場です。
現在、ほぼ全ての省又は管轄市ごとに、合計約40の地域性株式取引センターが設置されています。
2.地域性株式取引センターの設立背景
2012年、中小企業の発展を促進するためには、「中小企業の数が多いが、資金調達が難しい」「社会資金が多いが、投資が難しい」、という「2つの多さ」と「2つの難しさ」を解決する必要があります。
そこで、中央政府は、地方が地域性株式取引センターを新たに設立することを許可し、上海証券取引所及び深セン証券取引所以外での店頭市場を研究し、かつ、促進しています。2012年8月、中国証券監督管理委員会は、「地域株式取引市場における証券会社の参加規制に関する指針」を発表しました。
この指針によれば、中国の資本市場は4つのレベル(図の通り)で構成されることが最初に確認されました。
次に、2017年5月3日、中国証券監督管理委員会から「地域性株式市場の監督管理試案」が発布され、同年7月1日に施行されました。
この「試案」は「国務院弁公庁から株式市場の地域性発展に関する通知について」(国弁発〔2017〕11号、以下は「通知」といいます。)の中で規定した地域性株式市場業務及び監督規則を統一するために発布されており、多階層資本市場システムの完備、大衆創業と革新の促進、革新が駆動する発展戦略の実施、企業のレバレッジ比率(自己資本に対する借入資本の比率)を下げるなど様々な方面で積極的な意義を持っています。
3.前海株式取引センターの位置付けとメリット
(1)前海株式取引センターの設立
中国における最大のOTCマーケットである前海株式取引センターは、2013年5月30日に正式にオープンし、オープン当日、1200社が同取引センターに登録しました。
現在では、既に中国で最大かつ最多なサービスを誇るOTCマーケットに発展し、遥かに早いスピードでその他のOTCマーケットを追い越しました。
なお、主に株式や債券の売買取引を行うための施設である証券取引所と違い、同取引センターは、実際の機能としては企業展示や融資ソリューション等の提供であり、持分の譲渡、取引は一切できないです。
前海株式取引センターの正式名称は前海株式取引センター(深圳)有限会社です。同取引センターは深セン前海深港現代サービス協力区で設立された国有の市場に連動したマーケットです。
前海株式取引センターは、広東省地区における株式取引市場の中でも重要かつ主要な組織であり、登録資本金は11億7740万人民元です。
同取引センターの株主は、中信証券株式会社、国信証券株式会社、安信証券株式会社、深圳証券情報有限会社(深圳証券取引所の傘下企業)、深圳市革新投資グループ株式会社、深圳市遠緻投資有限会社、深圳聯合財産権取引所株式会社及び深圳市前海開発投資持株有限会社という8社の企業で構成されています。
前海株式取引センターは、中国最大の株式及び債権の店頭取引(OTC取引)市場で、中小ベンチャー企業のために、融資が受けられやすいプラットフォームを提供することが目的とされています。
同取引センターは、インターネット上のプラットフォームを利用した企業のスタートアップと発展を支援しており、現段階では上海や深圳の証券取引所で登録することができない多くの中小企業に対し、独自の最適化された融資計画案を提供し、企業のために、銀行や上海・深圳の証券取引所以外の新しい融資ルートを開発して、企業成長の夢を実現する手助けを行っています。
同取引センターは独特の「投融宝」、「プライベートエクイティファンド」、株権融資などの金融商品は中小企業に直接的な融資のサービスを提供できております。取引に参加できる企業の条件は証券取引所に上場する企業よりゆるやかです。
(2)前海株式取引センターの特徴
同取引センターには多くの特徴があります。
①登録するに当たって行政庁の認可等が必要がないこと。
②登録料と委託料が不要であり、前海の企業の上場、表示、及び初期登録は無料であること。
③企業の形態にかかわらないこと(パートナーシップ、有限責任会社、股分有限会社等が含まれます。)。
④業界の制限がないこと(あらゆる業界が含まれます。)。
⑤義務的な情報開示(企業業績の情報も含まれます。)がないこと。
4.前海株式取引センターの登録要件
以前は、会社の成長段階に応じて、標準板、企業の卵板(中国語:孵化板)、又は海外板に登録することを選択できましたが、現時点では、企業の卵板と海外板がなくなり、標準板しかありません。
(1)標準板(前掲の図の「新四板」の一種類です。)
前海株式取引センターの標準板に登録する条件は下記の通りです。
設立から1年以上の未上場企業が、次の4つの条件のうち1つに合致すれば、前海株式取引センターでの株式取引が可能となります。
①収益性
直近12カ月間の純利益が累計で100万人民元以上であること。
②営業収入と成長性
直近12カ月間の営業収入が累計で1000万人民元以上、又は直近24カ月間の営業収入が累計で1000万人民元以上かつ成長率が30%以上であること。
③純資産と営業収入
純資産が500万人民元以上であること。
④金融機関からの与信状況
直近12カ月間の銀行融資が100万人民元以上、又は投資機関の株式による出資額が100万人民元以上であること。
ただし、上記の各条件に合致したとしても、次の各号に掲げる事項のいずれかに該当する場合には、登録はできません。
①経営状態の異常な悪化又は重大な違法で信頼できない企業としてリストに含まれていること。
②過去12か月間に行政処罰がないこと。
③企業又はその法定代表者が、ブラックリスト(信用情報)に記載されていること。
④前海株式取引センターが定めるその他の事項。
(2)海外板
2017年7月に、前海株式取引センターの海外板はなくなりました。
なお、海外板の以前の登録要件は下記の通りです。
企業の存続期間が1年間以上で、かつ、以下の基準のうちの少なくとも1つを満たす場合には、店頭公開が可能となります。
①特許協力条約(PCT)によって特許を申請し、少なくとも以下の4つの国の1つに認可されていること:米国、欧州連合(EU)、日本、中国
②PCTによって特許を申請していないが、米国、欧州連合(EU)、日本、中国のうち、少なくとも2つの国で特許ライセンス、商標又は著作権の承認を得ていること
③同取引センターが指定した雑誌で画期的な記事を発表しているか、或いはその記事の内容に基づいて製品を完成させ、又はその記事の経済的見通しについて研究によって証明或いは支持がされていること
④FDA、CE、PMDA又はCFDAからの製造承認を受けた医薬品(医療機器を含むが、健康製品、健康食品は含まない、以下同じ)を有している
⑤米国、欧州連合又は日本で、少なくとも1件の医薬品の特許ライセンスを取得し、かつ、FDA、CE、PMDA又はCFDAから臨床承認を得た医薬品を有していること
⑥100万米ドル以上の政府補助金を受領しているか、又は同業界や類似の業界の有名企業、その支配子会社との間に正式な提携契約を締結しており、同有名企業又はその支配子会社が、提携契約に基づき海外板に登録しようとする会社に対して、100万米ドル以上の投資を行っていること(有名企業の基準がQHEEに定められている)
⑦財務要件(会社は、人民元換算後の財務指標において、以下の基準1つを満たしている)
a.直近12カ月の純利益の累計が300万人民元を下回らないこと
b.直近12カ月の営業収入の累計が2000万人民元を下回らないか、又は、直近24カ月の営業収入の累計が2000 万人民元を下回らず、かつ、累計成長率が30%を超えること
c.純資産が1000万人民元を下回らず、かつ、直近12カ月の営業収入が500万人民元を下回らないこと
5.店頭公開までの流れについて
店頭公開までの流れは「申請→資料審査→展示整理→店頭公開→融資」となります。
①企業はネット上で店頭公開申請を行い、PRする企業情報を入力する。
②ネットで提出した申請文書が株式取引センターの検証を受け、受領通知を受け取った後、企業は文書一式を送付する。
③紙面の申請文書が前海株式取引センターの検証を受けた後、前海株式取引センターと企業は「企業店頭公開サービス契約」を締結する。
④契約締結後、前海株式取引センターが店頭公開する企業コードを確定し、店頭公開の手配をする。そのための情報PRサービスを提供する。
店頭公開まで、中国律師が申請手続中の中国法関連部分及び融資計画案の作成を支援することが可能です。
6.上場成功例
なお、筆者は、前海株式取引センターに海外板があった時期に、以下の企業が同取引センターの海外板に登録するに当たって、支援を行いました。
(1)再生可能エネルギー発電企業
(2)シェアハウス・ガレージ付きアパート等
(3)スマート自動販売機企s業の中国関連企業
(4)有名アニメ会社の中国関連企業
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています