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中国の会社法による少数株主に対する利益保護について

2020年5月26日
中国の会社法による少数株主に対する利益保護について

1.  はじめに

中国の関連法律に基づき、少数株主とは、会社における取締役、監事、上級管理職以外の株主で、単独で会社の5%以上の株式を保有する株主以外の株主を指しています。
中国では、支配株主による支配権濫用が深刻な問題となっています。
例えば、上場企業における株式の保有状況をみると、筆頭株主の持株比率が非常に高く、かつ相当数の会社は、上位5位までの株主と特に密接な関係を持っています。

近年、中国においては、少数株主の利益保護に対する規定は、立法上又は司法解釈等でも十分に定められていますが、支配株主による権限濫用の現象は次から次へと起こります。
2005年の改正会社法と一連の解釈論のほか、「上場企業管理準則」等も支配株主の責任規制並びに少数株主の権利の設定を通じて、少数株主の利益保護を図っています。

本稿は、中国会社法その他の関連法規に定められた少数株主保護について現状を踏まえ、主な規定を解説します。

2.  少数株主に対する利益保護の重要性及び問題点

株主の利益を保護することは、中国会社法の主な立法趣旨の1つです。
株主が保有する株式の数に関わらず、法律は全ての株主に平等な保護を提供するものとしています。
但し、少数株主は少ない株式数しか保有していないため、会社の経営判断に影響を与えることができない場合が多く、特に、株主総会に出席するコスト(例えば、交通費、宿泊費、勤めを休んだ費用)が高いため、一部の少数株主が株主権の行使を放棄する場合もあります。
ですから、会社経営の決定権は実際には支配株主にあります。
株主の間に利益の対立が発生する場合は、支配株主が自身の利益を保護するために少数株主の利益を侵害してしまう可能性が非常に高いです。
しかし、少数株主が保有する資本を会社へ投入することは、会社制度存続のための社会的根幹です。
少数株主の利益を守ることができないと、必然的に資本市場の信用危機を招き、株主の投資意欲が減少し、企業の存続が不可能になります。
すなわち、会社の長期的な発展と少数株主の利益保護は密接に繋がっていることが分かります。

近年、中国の経済は急速に発展し、法律や政策も少数株主に対する利益保護を重視する傾向にありますが、少数株主の利益が損なわれる現象は依然として珍しいことではありません。
主な理由は次のとおりです。

(1)経営情報の格差

会社の運営上、支配株主と少数株主の間には深刻な情報の不平等性があります。

支配株主は、会社の運営に関わる大量の情報を速やかに把握し、自分の利益を最大化するために有利な決定を下すことができます。
一方、少数株主は、会社の運営に関わる情報を包括的に把握できていないことが多く、自分の利益に繋がる判断を下すことは困難です。

(2)株主権利への無関心

一部の少数株主は自らの利益保護についての関心があまりありません。

上場企業を例として説明します。上場企業において、多くの少数株主が会社の株式の一部を所有しています。
これらの株主にとって、利益を増加させることができるかどうかが唯一の目標です。
自分の権利を支配株主に侵害されているかどうかの懸念は言うまでもなく、株主権利が侵害されたことを知っていても、株主の権利を行使するためのコストが高いので、自らの株主権利に対する法的救済を求める人はほとんどいません。

3.  少数株主に対する利益保護の原則

少数株主に対する利益保護の原則

(1)平等

平等の原則は、私法自治の原則の基礎です。
株主間の平等は、会社法の原則の1つです。
株主は、保有する株式がいくらであっても平等に扱われる必要があります。
例えば、少数株主も、会社の株主総会に出席し、主要な問題に関する意思決定に参加し、取締役を選び、取締役会及び監督者のメンバーとして選出され、配当を受け取る権利があります。
株式間の平等は、株主が保有する株式の種類と数に応じて平等な権利を与えることで保たれます。
「一株一権、一株一票」の原則を実現すると結果として、多数の資本による決定になります。
このような決定の方式によると、支配株主は、資本の優勢を利用して会社に対する支配力と意思決定力を行使して、少数株主の権利を侵害するかもしれません。
したがって、株主間の平等は、実際には株式の平等を前提とします。

(2)公平

現在、中国における様々な会社では支配株主が少数株主に対して詐欺や抑圧を行っているという現象が次から次へと発生しており、少数株主の権利と利益に損害を与えています。
もちろん、少数株主も保有する株式に基づいて株主の権利を行使することができますが、少数株主の保有する資本や株式が少ないため、彼らの意思が反映されなかったり、支配株主に拒否されたりしてしまい、やがてそれは必然的に少数株主に対する、大きな不公平を引き起こすでしょう。

(3)誠実

多数決の原則によると、支配株主の意向は会社の意思であると見なされます。
支配株主は実際に会社の方向性を決定する決定権と管理権を有するので、権利と義務の原則に従って、少数株主に責任を負ってしかるべきです。
それは誠実の原則の具体化です。会社に大きな影響を与える決定を行う場合、支配株主は自分の利益だけでなく、少数株主の利益も考慮に入れるべきです。
会社の運営上の利益を得るために、少数株主の利益を勝手に犠牲することは許されません。

4. 少数株主の利益保護に関わる制度

少数株主の利益保護に関わる制度

(1)累積投票制

中国では2005年会社法改正の際に、アメリカ、日本等の先進国から累積投票制が導入されました。
中国会社法第106条によると、株主総会が取締役及び監査役を選出する場合、会社定款の規定又は株主総会の決議に基づき、累積投票制を実施することができます。
同条における累積投票制とは、会社の株主総会で取締役又は監査役を選出する場合に、議決権のある株式1株につき、選出される取締役又は監査役の人数と同じ数だけ議決権を行使できる機会があり、株主が保有する議決権を最大限行使できることを指します。

すなわち、中国会社法上の累積投票制の実施は会社の私的自治に委ねられているということです。
ただ、アメリカ及び日本などの先進国は既に強行法的な累積投票制から任意規定に転換したように、任意規定の方が採用各国において一般的であること、累積投票制の実効性を担保するためには、会社株主の構成に一定の条件が必要であり、全ての株式会社に対して累積投票制を強制させるのは無理だと思います。

(2)持分買取請求権

持分買取請求権とは、株主総会において株主の利益に最も関係のある特定の決議が多数決によって成立した場合に、これに反対する少数株主が自己の有する株式を、その決議がなかったとすれば有したであろう公正な価格で買い取ることを会社に請求できる権利を言います。

中国では、次の各号に掲げる状況のいずれかが生じた場合は、株主総会の当該決議に反対票を投じた株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るよう請求することができます。

  • 会社が5年連続で株主に対し利益分配を行わず、当該連続した5年間において会社に利益があり、かつ中国会社法に定める利益分配条件を満たしている場合。
  • 会社を合併もしくは分割し、又は主要財産を処分する場合。
  • 会社定款に定める営業期間が満了し、又は定款に定めるその他の解散事由が発生したにもかかわらず、株主会が定款修正の決議を採択し、会社を存続させた場合。

株主会会議の決議が採択された日から60日以内に、株主と会社が持分買取協議について合意できない場合は、株主は株主総会の決議の採択日から90日以内に人民法院に訴訟を提起することができます(中国会社法第74条)。

(3)知る権利及び提案権利

株主は、会社の定款、株主総会の議事録、取締役会の議事録、監査役会の議事録及び財務会計報告を閲覧し、謄写する権利を有します。株主は会社の会計帳簿を閲覧することができます。
株主は会社の会計帳簿の閲覧を請求するときは、会社に書面で請求し、目的を説明しなければなりません。
会社は合理的な根拠に基づき、株主が不正の目的をもって会計帳簿を閲覧し、会社の適法利益に損害を及ぼすおそれがあると判断するときは、その閲覧を拒むことができます。
その場合、株主が書面で請求した日から15日以内にその株主に書面で回答し、かつ理由を説明しなければなりません。会社が閲覧を拒む場合には、株主は人民法院に会社に閲覧させるように請求することができます(中国会社法第34条)。

株主は、会社定款、株主名簿、社債の控え、株主総会議事録、取締役会議事録、監査役会議事録及び財務会計報告書を閲覧し、会社の経営について提案又は質問を提出する権利を有します(中国会社法第98条)。

少数株主にとっては、会社の経営管理に対し、提案する権利を有します。
単独で、又は合計で会社の3%以上の株式を保有する株主は、株主総会開催の10日前までに臨時の提案を提出し、かつ書面により取締役会に提出することができます(中国会社法第102条第2項)。

株主会又は株主総会が取締役、監査役、上級管理職に対して会議への出席を求めた場合、それらの者は出席し、かつ株主の質問に答えなければなりません(中国会社法第151条)。

(4)利害関係者の株主の議決権の除外

会社は、定款に定めることにより、取締役会または株主総会の決議で、他の企業に対し投資したり、他人に対し担保を提供したりすることができます。
投資又は担保の総額或いは単独投資又は担保金額についての限度額について定款に定めがある場合には、その限度額を超えてはなりません(中国会社法第16条第1項)。

会社が当該会社の株主または実質的な支配者に投資したり担保を提供する場合には、株主総会の決議が必要です(中国会社法第16条第2項)。
この場合、担保の提供を受ける株主や実質的な支配者は、採決に参加できません。
当該採決を可決するには出席した他の議決権者の過半数の同意がなければなりません(中国会社法第16条第3項)。

利害関係者の株主の議決権の除外については、主として支配株主を対象としており、ある程度の利害関係がある支配株主による議決権の濫用の可能性を事前に排除し、少数株主と支配株主の対立を解消しておくことを目的とします。
利害関係のある株主の議決権の除外は訴訟などの事後的な救済措置より重要な役割を果たし、少数株主に対して直截な経済的利益をもたらすことができます。

(5)株主による直接訴訟及び派生訴訟

中国会社法第149条により、取締役、監査役、上級管理職が会社の職務を執行する場合に、法律、行政法規又は会社定款の定めに反して、会社に損害を与えたときは、賠償責任を負わなければなりません。
第152条により、取締役、監査役、上級管理職が会社の職務を執行する場合に、法律、行政法規又は会社定款の定めに反して、他の株主に損害を与えたときは、賠償責任も負わなければなりません。

これらの場合、少数株主等は、自分または会社の利益保護のために、訴訟を提起する権利があります。
訴訟の目的により、株主による直接訴訟と派生訴訟に分けられます。
訴訟の目的が株主の個人利益の保護の場合、直接訴訟と言い、訴訟の目的が会社の利益保護の場合、派生訴訟(derivative suit)と言います。
具体的規定は、以下のとおりです。

取締役、上級管理職に上記第149条に定める事由がある場合、有限責任会社の株主、または、連続180日以上単独で又は合計で会社の1%以上の株式を保有する株式会社の株主は、書面により監査役会又は取締役会に人民法院への訴訟の提起を請求できます。
但し、監査役会又は取締役会が株主の書面による請求を受領した後、訴訟の提起を拒否する場合、または、請求を受領した日から30日以内に訴訟を提起しない場合、或いは、情況が緊急であり、直ちに訴訟を提起しなければ会社の利益に補填しがたい損害をもたらし得る場合、株主は会社の利益のために、自己の名義により人民法院に直接訴訟を提起することができます(中国会社法第151条)。
これを、少数株主等による派生訴訟と言います。
一方、株主は、自己の利益を損なった場合自己の利益粗語のため人民法院に対して訴訟を提起することができます(中国会社法第152条)。
これを、少数株主等による直接訴訟と言います。

5.まとめ

中国でも、業績不振のみならず、不祥事による会社倒産のような事態も発生しています。
会社にとって、不祥事を未然に防止することが、これまで以上に求められています。
中国における会社法及び関連法規では、少数株主の権益を保護し、経営者を監督する観点から、上記の累積投票制、持分買取請求権及び株主としての派生訴訟制度等を重要な措置として導入したことが大きな意義を有しています。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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