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中国独占禁止法の改正案の解説と動向

2020年4月9日
中国独占禁止法の改正案の解説と動向

1.始めに 中国独占禁止法改正が立法計画に

中国独禁法関連「独禁法三部規定」が2019年9月1日に施行(中国独禁法関連「独禁法三部規定」ついに施行中国独禁法の今後)されてから約半年後、中国独占禁止法(以下「中国独禁法」という)の改正案に関するパブコメが本年(2020年)1月1日から始まり、1月31日までコメントが募集されました。
中国独禁法が施行されてから12年の年月を経て、初めての改正を迎えることになりました。
中国独禁法執行機関である国家市場監督管理総局(State Administration for Market Regulation. 以下、SAMR)の副局長甘霖氏の2019年11月16日の記者会見によりますと、中国独禁法改正は既に中国第十三期全人代(20018年3月から2023年3月の五年間)の立法計画に乗っていたようです。さらに、今回の中国独禁法改正案は欧米の法体系を参考にしたことを明言しており、近々,「知的財産領域における独占禁止ガイドライン」が公布されることも明らかにしました。
同時に、記者会見において、「独禁法の不確定性という特性から、法執行機関の裁量権の規範化を図りながら、法適用の柔軟性を保つ」と発言しており、法執行に関する不透明性の疑念(予測可能性の不十分性)を残しています。

 

なお、本改正案は本年(2020年)3月に開催予定であった第13期全人代3次会[1]で成立予定でしたが、COVID-19により同3次会が延期され、現在のところ開催時期は未定です。
しかし、立法計画は5年計画ですので、今回の全人代で成立させるとは限りません。
また、場合によっては、全人代の常務委員会で改正される可能性もあります。
同委員会はその権限を持っているからです。

 

2.主な改正ポイント

今回の中国独禁法改正案においては、現行法の構成を変更しなかったものの、主に6つのポイントにおいて、18か所変更を行いました。

(1)立法趣旨の追加

① イノベーションの奨励

現行中国独禁法第一条は、「独占行為の予防と禁止、市場公平競争の保護、経済効率の向上、消費者利益及び社会公共利益の保護、社会主義市場経済の健康な発展の促進」等の立法趣旨を謳っており、今回の改正案では、中国独禁法第一条に「イノベーションの奨励」を付け加えました。

「イノベーションの奨励」立法趣旨の追加により、知的財産領域において新興技術の保護に法執行のかじ取りをしやすくしたと考えられます。

② 競争政策の国家経済政策における基礎的地位を強化

中国独禁法改正案第四条は、「国家は競争政策の基礎たる地位を強化する」としており、独禁法の国家基本経済政策における重要性を強化しています。
中国独禁法の歴史においても重要な転換点となり、中国が今後独禁法の法執行を強化していく考えが伺えます。

③ 公平競争審査制度の構築

中国独禁法改正案第九条は「国家は公平競争審査制度を構築実施し、政府行為を規範化し、競争を妨害し、制限する政策及び措置等の出現を防止する」としております。
当該制度の構築と運営は、中国独禁法の競争政策の基礎たる地位を実質的に確立させるものであり、今後公平競争を妨害ないし制限する政府行為は独禁法の審査に服することになります。

(2)法執行体制の再構築及び効率化

① SAMRの地方連絡事務所の設置

2019年初めに、SAMRは中国各省に独禁法執行に関して包括的な権限を授与しました。
しかし、これでは、中国全土において効率的な法執行を行う上人員不足になるほか、地方保護主義を有効に食い止められないため、中国独禁法改正案では、SAMRが中央直轄の地方連絡事務所を設置することになりました。

② 調査停止制度の不適用

中国独禁法改正案第十五条第1項(価格固定)、第2項(生産数あるいは販売の制限)、第3項(販売市場あるいは仕入市場の分割)に定める独禁法違反行為に対しては、調査停止制度は適用されません。[2]

③ 警察機関の独禁法調査への協力

中国独禁法改正案第四十四条二項は「必要に応じて警察機関はその調査に協力しなければならない」としており、独禁法執行に妨害する行為に対して警察を動員することができるようになりました。

④ 行政機関の調査協力義務の明確化。

独禁法執行行為に対して、行政機関は協力する義務が法的に明確化されました。

(3)中国独禁法体系の再構築

① 独占禁止法違反行為の定義

中国独禁法改正案は独占禁止法違反行為の定義を単独の条文にしました。
旧中国独禁法における独占禁止法違反行為の定義は、第十三条の後段に組み込まれていたものを切り離して単独の条項にしました。
旧独禁法第十三条は各種独占禁止法違反行為に関して列挙式を取っており、その第二項でカルテルの定義を置いていたため、法執行機関と裁判所の間でその解釈に関して齟齬が生じた経緯があります。
ある再販価格の固定した案件において、法執行機関は「直ちに違法」として認定したが、裁判所は「合理的な分析」としました。しかし、中国独禁法改正案におけるカルテルの定義は、「直ちに違法」、「合理的な分析」か、いずれをも明確にしていませんが、法執行における柔軟な解釈の余地を残しています。

② 第三者によるあっせん行為の禁止

現行中国独禁法では、横のカルテル、縦のカルテル、業界団体によるカルテルあっせん行為は処罰できます。
しかし、第三者によるあっせん行為に対して処罰することは容易ではありません。
今回の改正案第十七条は「その他の経営者を組織し、そのカルテルの達成を幇助してはならない」としており、第三者のカルテルあっせん行為を処罰できるようにしています。

(4)企業結合(経営者集中)審査に関する大幅な修正

① 支配権概念の追加

中国独禁法改正案第23条2項は、会社法、証券法等における支配権と異なる概念を規定しました。
すなわち、企業結合審査を行う際に考慮する支配権とは、「直接的あるいは間接的に、単独であるいは共同して他の経営者(企業)の生産経営活動あるいはその他重要な政策決定に決定的な影響を与えるあるいはその可能性ある程の権利あるいはその実態ある場合」を指すとしています。

② 企業結合審査基準の調整

中国独禁法改正案第24条2項は、国務院(中国中央政府)の独禁法執行機関は経済発展の水準、業界規模等に鑑みて合併申告の基準を修正し、公表する、としました。
現在の国務院の独禁法執行機関はSAMRですので、SAMRが企業結合審査基準を制定・修正する権限を持つことになります。

③ 審査期間中断(stop the clock)制度[3]の導入

中国独禁法改正案第30条は、審査期間(stop the clock)制度を導入しました。具体的には、以下の3つの場合に審査期間中断(stop the clock)制度が適用されます。

a) 申告者の申請あるいは同意によって審査手続きを停止する場合

b) 国務院独禁法執行機関の要求に応じて資料等を補充する場合

c) 国務院独禁法執行機関と経営者間で制限条件付き決定に関して交渉する場合

現行法(25条、26条)でも改正案(28条、29条)でも、企業結合の審査期間は、初動調査が30日間で、その間に結果が出れば審査終了し、初動調査で更に審査が必要と判断した場合は更に90日間審査ができ、この90日間に審査が終了しない場合でも、以下の三つの場合には、更に、60日間の延長審査が可能です。

a) 申告者が同意した場合

b) 提出した資料が正確でなく、確認の必要がある場合

c) 申告後、重大な状況の変化が生じた場合

審査機関はこの最大180日の審査期間内に審査を終了しなければなりません。
そこで、以下のような状況が発生していました。

  1. 審査機関は複雑で長期の審査が予想される案件はある程度事件の内容が明確になるまで申告を受理しない
  2. 審査が180日内に終了しない場合、再度申告させる
  3. 申告受理後の審査の途中で180日内での審査終了の目途が立たないと判断した場合、申告を一旦取り下げさせて再度申告させる

これらの状況を是正する趣旨で改正案に審査期間の中断(stop the clock)制度が設けられました。

④ 審査結果取消制度の追加

中国独禁法改正案第51条によれば、企業結合審査の際に虚偽の情報を提供してクリアランスを得た後にそれが発覚した場合、審査機関はその審査結果を取り消すことができるようになりました。

⑤ 未申告の企業結合に対する処罰の加重

中国独禁法改正案第55条は、合併審査申告基準(ガン・ジャンピングとウェアハウジング・ストラクチャ M&Aと独禁法の交錯 欧州委員会が制裁金34億円・欧州司法裁判所と二重の危険(二重処罰の禁止 )に達していながら申告しなかった場合の処罰金を従来の「50万人民元」より「前年度売上の10%以下の金額に処する」と大幅に増額しました。
今回の改正はEUの競争法を模範としていますので、恐らく、売上とは国内売上ではなく、グローバルでの売上高と解されるものと推測されます。

(5)インターネット関連会社の優越的地位の確定基準の追加

今回の中国独禁法改正案は、インターネット関連会社(いわゆるデジタルプラットフォーマー)に対して特別な条項を設け、これらの企業に対する独禁法執行に布石を打っています。
改正案第21条は、「インターネット領域における経営者(企業)の市場優越的地位を認定するにあたって、そのインターネットにおけるネットワーク効果、規模経済、ベンダーロックイン、データ収集と処理能力等要素を考えなければならない」としています。
特に、「データ収集と処理能力」の考慮は、ビックデータと独禁法との関係を意識した改正といえます。[4]

(6)罰金の加重及び刑事罰の追加

中国独禁法改正案第57条は、「経営者(企業)が独禁行為を行い、他人に損失を与えた場合法によりその民事責任を負う。
犯罪を構成した場合、法によりその刑事責任を追及する」としており、旧法になかった刑事責任が追加されました。
これを受けて今後、中国刑法も独禁法の改正案と合わせた内容の修正が行われるでしょう。

 

罰金の変更に関しては、以下の表のとおりになります。

処罰対象 現行法規定(上限額) 改正案規定(上限額)
未申告等合併
審査違反
50万人民元 前年度売上の10%
カルテル締結かつ実施 前年度売上の10% 前年度売上の10%
カルテル締結、未実施 50万人民元 5000万人民元
カルテル締結、前年度売上なし 規定なし 5000万人民元
カルテル締結を促進した協会等 50万人民元 500万人民元
優越的地位の濫用 前年度売上の10% 前年度売上の10%

 

3.まとめ

中国の独禁禁止法はその制定から初めての大幅な改正を迎えています。
直近12年の法執行により蓄積された経験、諸外国特に欧米の独禁法を参考にした内容が目立っています。
特に、罰金の加重、刑事罰の導入は企業活動に慎重な判断を促すと同時に、企業にそのリスクを強く意識させ独禁法の遵守を図ることができます。

企業結合審査に関しては、中国中央政府(国務院)の独禁法執行機関(SAMR)の制定する審査基準を待つことになります。また、今回の改正案では、販売区割に関して明確な規定はなく、物議を呼んだ「セーフハーバー制度」も導入されていません。
これらは、企業活動における販売網の展開と共同研究開発、共同販売等の行為に対してまだ不確定リスクを残したと言えます。
さらに、罰金の計算の仕方、範囲等に関しても現時点では必ずしも明確でない部分があります。

今後のSAMRが制定・公表する規則や解釈のモニタリングが必要です。

 

 

[1] 全人代の任期は5年で、第13期は2018年から2022年です。2020年は第13期の3年目で、今回予定されていた会議は3回目に開催される会議ですので、第13期全人代3次会と呼びます。

[2] 後述((4)③)の企業結合審査期間中断制度は、一定の場合にその期間を審査期間に参入しない制度であるのに対して、この調査停止制度は調査そのものを停止する制度です。

[3] 始めに返って最初から期間が進行する訳ではありませんが、時効中断の制度に似ています。

[4] 2018 年 8 月に可決された「中華人民共和国電子商務法」は、「電子商務プラットフォーム経営者」や「プラットフォーム内経営者」の義務や責任を定めています。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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