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コロナウィルスと不可抗力(Force Majeure)条項

2020年4月17日
コロナウィルスと不可抗力(Force Majeure)条項

1. はじめに

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。

日本では、去る4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されました[1]
4月14日現在で、世界182か国に対する入国制限等がなされています。

さらに、ジェトロによる在米日系企業へのアンケート結果[2]によれば、生産を中断または通常未満の生産をしている企業は約7割に達しているとのことであり、新型コロナウイルス感染症が蔓延する前に締結した契約を、そのまま履行し続けることは非常に困難な状況になっています。

 

そこで、今回は、上記のような契約締結後の事情変更への対応について規定している Force Majuere(フォースマジュール)条項について説明をしていきたいと思います。

 

2. Force Majuereの概念とForce Majeure条項の具体例

英文契約においては、一般条項(取引に特有でない条項としてすべての契約書に共通して用いられている条項[3])の一つとしてForce Majeure条項があります。

 

Force Majeureとは、「人為を超えた予測困難で制御不可能な外的要因を指す契約用語」です。
日本語で言えば「不可抗力」であり、「その語源はフランス語の『大いなる力』」です。

 

Force Majeureという概念は、1804年に発効したフランス民法典(ナポレオン法典)にも規定されていました。
ナポレオン法典の1147条と1148条には次のように規定されていました[4]。(なお、現行フランス民法典では1218条に規定されています。)

 

【1147条】
債務者は、債務不履行を理由としてまたは履行遅延を理由として、必要な場合には、損害賠償の支払いを命じられる。
但し、自己に悪意がないときでも債務者が自己の責任ではない理由で債務不履行をしたことを証明したときはこの限りでない。

 

【1148条】
不可抗力または偶発事故のせいで、債務者が債務のある物を与えることができずまたはなすべきことをなさずもしくはしてはならないことをしたときは、損害賠償の必要はない。

 

このForce Majeure条項は、「当事者のbeyond the control(支配管理を超えた)、つまりコントロール外の事情が発生した場合(例えば、売主の工場に落雷があり、商品の出荷ができなかった、などという場合)、契約の義務を免除することを規定する条項」[5]です。

 

Force Majeure条項の例としては、例えば、次のようなものがあります[6]

 

Neither Party shall be liable for failure to perform under this Agreement in the event that performance is rendered impossible due
to force majeure, including but not limited to, acts of God, war, threat of war, warlike conditions, hostilities, mobilization for war,
blockade, embargo, detention, revolution, riot, port congestion, looting, strike, lockout, plague or other epidemic, destruction or
damage of goods or premises, fire, typhoon, earthquake, flood or accident, or due to acts of governmental or quasi-governmental
authorities or any political subdivision or department or agency thereof, or due to any labor, material, transportation or utility
shortage or curtailment, or due to any labor trouble at the place of business of either Party or their suppliers, or due to any other
cause beyond the control of either Party.

 

いずれの当事者も、天変地異、戦争、戦争の怖れ、戦争類似の状況、敵対行為、戦時体制、封鎖、通商停止、拘留、革命、暴動、港湾の混乱、略奪行為、ストライキ、ロックアウト、伝染病もしくはその他の疫病、物資もしくは施設の破壊もしくは損傷、火災、台風、地震、洪水もしくは事故、または政府当局もしくは準政府機関またはいずれの政治的部門・部署・機関の行為による場合、または労働、資材、輸送手段もしくは公益設備の不足もしくは遮断、または各当事者もしくはその供給業者の事業所での労働争議、または各当事者の支配管理を超えた他のいかなる事項などにより義務の履行が不可能となった場合には、本契約に基づく義務の不履行について相手方当事者に対して責任を負わない。

 

3. フラストレイション法理(Doctrine of Frustration)

Force Majeure条項と同様に、契約締結後の事情変更による契約の解消等を認める法理として、イギリス法においては「フラストレイション法理」があります。

 

フラストレイション法理は、「合法的に成立した合意がまだ効力を存しているうちに、合意の根底をゆり動かし、合意の成立したときに当事者によって全然考えられなかったものと、法によってみなされるような根本的な事件または環境の変化の発生によって生ずる、当事者間の合意の時ならぬ終了」[7]などと定義されています。

 

ローマ・カノン法では、すべての契約には、契約の基礎(前提)となった事情が変わらない限り効力を有するとする条項(事態存続の条項clausula rebus sic stantibus)が含まれているとされ、その反対解釈から、事情が変更すればその契約は効力を持たないと解釈されていました。
第一次世界大戦をはじめとした経済変動に直面した近代ヨーロッパでは、clausula rebus sic stantibus理論を根拠に、事情の変更による契約の拘束力の切断理論を発展させていきました[8]

 

しかし、イギリス法では、clausula rebus sic stantibus理論は認められていないといわれており、フラストレイション法理が発達していきました[9]

 

そもそもイギリス法では、「契約絶対の原則(doctrine of absolute contracts)」により契約当事者が履行義務から逃れるすべはなく、たとえ契約書に定める義務の履行が物理的に不可能になった場合でもその履行は絶対的とされていました[10]
したがって、履行ができなかった場合には、債務者は損害賠償の責任を負っており、それを免れるためには、明示の特約が必要とされていました[11](Paradine v.  Jane(1647年)判決参照)。

その後、契約絶対の原則の例外として、①Jackson v. Union Marine Insurance Co.(1874年)判決などによって、傭船契約や運送契約は航海の支障によって、永続的であると一時的であるとを問わず、契約目的の達成を不能にする場合には、解消されるという法理(Frustration of Adventureの制度)や、②Taylor v. Caldwell(1863年)によって、契約履行の可能性が一定の人または物の継続的存在にかかっている場合に、当該人または物が履行日の到来以前に消失したならば、当事者はそれにより契約上の義務から免除されるという法理(黙示的条件(implied condition)の理論)が示されました。
さらに、③Krell v. Henry(1903年)判決によって、黙示的条件の理論は、契約の成立時に当事者によって期待された一定の事態の不発生の場合にも適用されることになり、ついには、第一次大戦後の予期しえない多くの事態に適用されるに至って、イギリス契約法上、独立の契約解消原因としての地位を占めるにまで至り、フラストレイション法理として発展していきました[12]

 

4. 英米法におけるForce Majeure条項の導入

以上のように、契約締結後の事情の変更への対応について、フランスにおいてはForce Majeureによる免責が認められており、イギリスにおいてはフラストレイション法理が認められていました。

 

しかし、長期間に及ぶ海外との供給契約を締結する契約当事者にとって、契約締結後に事情が変更したとしても、フラストレイション法理が適用されるかは自明ではなかったため、契約書を作成する時点でForce Majeure条項の導入が進みました[13]

 

5. 新型コロナウイルス感染症への対応方針(フローチャート)

以上からすれば、そもそも契約にForce Majeure条項が含まれているかや、当該契約の準拠法が大陸法系か英米法系かによって、契約締結後の事情の変更への対応方法が異なります。

 

この点、K&L Gates LLPのパートナーであるChristopher Tung氏による、新型コロナウイルス感染症への対応方針を決めるためのフローチャートが参考になります[14]
以下に、引用します。

 

Q1 契約に、不可抗力条項は含まれているか。
→はい→Q2-1へ
→いいえ→Q2-2へ

Q2-1 不可抗力条項は有効かつ強制可能か。
→いいえ→Q2-2へ
→はい→Q3へ

Q2-2 契約の準拠法は何か。
→大陸法系(中国、フランスなども含まれます。)であれば、Force Majeure法理の適用が考えられます。
→英米法系(香港、シンガポールなども含まれます。)であれば、フラストレイション法理の適用が考えられます。

Q3 不可抗力条項の記載は、不可抗力とされる事項が非網羅的で包括的な規定となっているか。
→はい→Q4-1へ
→いいえ→Q4-2へ

Q4-1 非網羅的で包括的な規定を検討した場合において、「疫病、パンデミックまたは政府による介入」がカバーされているといえるか。
→契約において必要とされている通知手続等を履行できていれば、契約の一時中断や解除または再交渉ができる可能性があります。

Q4-2 不可抗力となる事由が網羅的かつ限定的に規定されている場合において、当該事由の中に、「疫病、パンデミックまたは政府による介入」が含まれているか。
→はい→契約において必要とされている通知手続等を履行できていれば、契約の一時中断や解除または再交渉ができる可能性があります。
→いいえ→Q2-2に戻る。

 

6. おわりに

新型コロナウイルス感染症の影響は、今後、ますます拡大していくことが予想されます。

国際的な契約においては、その準拠法や各国の法体系を十分に調査した上で、契約締結後の事情変更への対応策を考えなければなりません。
ご自身の契約が履行されるか等について不安を持たれている場合は、お早めに渉外法務に精通した弁護士へご相談されることをお勧めします。

 

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020407.pdf
[2] https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/covid-19/us/doc_us_20200410.pdf
[3] 牧野和夫『知識ゼロから取引交渉のプロを目指す 英文契約書の基礎と実務』122頁/発行所株式会社DHC
[4] 資料 『1804年ナポレオン民法典』(4)  中村義孝(訳)
[5] 前掲注3 131頁
[6] 前掲注3 130頁~131頁
[7] 五十嵐清『英法におけるフラストレイション法理について―――事情変更の原則に関する比較法的研究その一 ―――』北海道大學法學會論集, 9(2), 1-28 5頁
[8] 近江幸治『民法講義Ⅴ契約法〔第3版〕』 9頁/発行所株式会社成文堂
[9] 前掲注7 5頁
[10] 水谷健亮『英米法におけるフォース・マジュール~転ばぬ先の杖~』石油・天然ガスレビュー2018.11 Vol.52 No.6 32頁
[11] 前掲注7 5~6頁
[12] 前掲注7 5~9頁
[13] Overseas supply and installation contracts (Chapter 17 Frustration and Force Majeure) at 290
[14] The Legal Consequences of COVID-19 on Your Contracts: Force Majeure in Different Jurisdictions and Industries, and Some Practical Guidance

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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