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民法改正に伴う不動産売買契約書作成時の注意点
1.はじめに
改正民法は、2020年4月1日に施行されました。
民法改正(債権法改正)により、とりわけ、諸々の契約類型に一般的に適用される債権総則及び契約総則が大幅に改正されました。
本記事では、企業間でなされる不動産売買契約に対して民法改正(債権法改正)が与える影響について、まず不動産売買契約書の意義について触れた上で、現行の危険負担や瑕疵担保責任及び契約の履行遅滞その他の債務不履行による損害賠償に関する民法の改正点を踏まえて同契約に与え得る影響を解説します。
2.不動産売買契約書の意義
不動産の売買契約は、高額な取引となり、多くの取り決めや手続・手順があります。
そのため、不動産売買契約書においては、対象不動産の内容や売買条件を含む当該取り決めや手続・手順を明文化することが望まれます。
そうすることによって、紛争を防止するだけでなく、トラブルが生じた場合の解決方法を定めておくことで、売主・買主双方が不測の不利益を被ることを事前に防止することが可能となるところ、不動産売買契約書は、これを目的として作成する書面です。
なお、不動産仲介会社(宅地建物取引業者)が売買仲介を行う場合には、宅地建物取引業法によって、契約が成立した際、遅滞なく宅地建物取引士が記名・押印した主要な契約内容を記した書面(通称、「37条書面」)を交付することが義務づけられています(宅地建物取引業法37条)。
3.民法が適用される場面とは―民法の任意規定性―
民法はいくつかの強行規定を除いて、任意規定です。「任意規定」とは、当事者の意思によって変更することが認められている規定をいいます。
そのため、取引実務上は、個別の契約では当事者間の取り決めにしたがって履行がなされ、①債務不履行にあたるか、②解除事由はあるか、③損害賠償請求ができるか、といったことは当事者間でどのような合意がなされたかが第一に検討されます。
民法が適用されるのは当事者間で取り決めがなされていない事項が生じた場合や取り決めがあっても一義的な規定ぶりではなく、その条項の意味や趣旨があいまいで解釈に争いが生じる場合などです。
以上のように民法が任意規定であることから、契約内容を明確に定めておくことが、契約上のリスクを回避するために大事になってくるわけです。
4.改正民法のもとで従前の不動産売買契約書を用い契約を締結する場合のリスク
(1)従前の契約書をそのまま用いて契約を締結することの可否
上述のように、民法が任意規定であることから、「改正民法が施行された後も現在使われている売買契約書をそのまま用いて契約することは可能ではないか。」という疑問が生じたのではないでしょうか。
結論から言えば、現在利用している契約書をそのまま利用して契約することは可能です。当面は、それでもかまわないといえるでしょう。
(2)改正民法下で、従来の不動産売買契約書を使い続けることのリスク
しかし、実は、今回の民法改正で、従来、契約書の文言で多く用いられていた民法上の用語の一部がなくなったり、別の用語に置き換わったりしています。
その代表的なものが「瑕疵担保責任」(旧民法570条)です。「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に用語が置き換わっただけでなく、その要件や効果も異なります。
売買契約において、目的物を引き渡した後に、目的物が契約時に当事者が予想していた品質や性能を有していなかったことが判明した場合、改正民法のもとで旧民法に規定する瑕疵担保責任を追及するのか、それとも、「瑕疵担保責任」と記載されている条項を契約不適合責任を指すものとして責任追及するのかは、「契約その他の債権の発生原因」及び「取引上の社会通念」を考慮して定められることになり、いずれの責任を追及することになるのか、裁判になれば争点の一つになります。
また、後述するように、瑕疵担保責任や契約不適合責任は解除や損害賠償にかかわる事項として、当事者が契約を締結するか否かを判断する際の重要な要素となるため、この点について、買主に適切かつ十分な説明を行っていなければ、売主業者や媒介業者は買主から説明義務違反に基づく損害賠償責任を問われる可能性もあります。
以上のように、紛争が生じた場合、不測の事態が生じる可能性もあることから、紛争が生じてから紛争の解決に費用や手間をかけるよりも、改正民法に合わせた契約書を使用することが望ましいと言えるでしょう。
5.改正民法下で問題となることが予想される具体的なポイント
不動産売買契約書において、改正民法との関係で特に問題となりうるポイントについて、以下個別に取り上げて記載したいと思います。
(1)債務不履行と違約金
① 債務不履行の要件
(ⅰ) 改正民法における変更点
改正民法では、一般的な債務不履行による損害賠償の要件を定める旧民法415条の内容を整理し、①債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または、②債務の履行が不能であるときに、原則として債権者が損害賠償を請求できるとしたうえで、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」には、債務者が損害賠償責任を免責されることを定めました(改正民法415条1項)。
債務者の帰責事由が要件となる点は旧民法と変わりませんが、債務者に帰責事由がないことの立証責任が債務者にある点が明文化されました。
(ⅱ) 不動産売買契約書への影響
現在、取引実務で使用されている不動産売買契約書では、債務不履行に基づく解除に関する条項と合わせて、以下のような規定がなされるのが一般的です。
第●条 売主または買主が本契約に違反した場合、相手方は、相当の期間を定めて催告し、その催告に応じないときは、相手方は本契約を解除し、代金の○○%に相当する違約金を請求することができる。
2 上記の場合において、売主の債務不履行により契約が解除されたときは、売主は、代金の○○%の解約金を支払う。ただし、売主は、受領済みの手付金、代金等の金員を無利息で遅滞なく買主に返還する。
上記条項は、債務不履行について、ⅰ契約違反の事実、ⅱ相当期間を定めた催告、ⅲ催告期間内の履行の不存在を要件として規定しており、債務者の帰責事由の存在を明文で規定していません。
そのため、債務者に帰責事由がないことの立証責任が債務者側に存在すると定める改正民法の債務不履行解除の要件と齟齬は生じず、問題ないと言えるでしょう。
手元にある契約書の債務不履行に関する条文に、債務者の帰責事由に関する記載があるか否か、あるとして、どのような定めになっているか、を確認してみてください。
② 違約金の定め
(ⅰ) 違約金の定めの法的位置づけ ―民法420条3項―
違約金の定めがなされた場合、損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。
この点、旧民法も改正民法も同様です。
違約金の定めがなされた場合、当事者は債務不履行の事実を主張立証するだけで、損害の発生や損害額を具体的に主張立証することなしに、違約金条項に基づいて約定した損害賠償額を請求することができます。
(ⅱ) 注意が必要な変更点
改正民法では、旧民法の「裁判所は、その額を増減することはできない」(旧民法420条1項)と規定されていた部分が削除された点には注意が必要です。
これは、旧民法のもとでも、旧民法420条3項は、90条の公序良俗違反などの一般法理までも排除するものではなく、違約金額が著しく高額で不合理なものである場合には、過大と認められる部分については効力を否定する判断が定着しており、それを反映したものとなります。
改正の背景からわかるのは、現実に発生した損害額と損害賠償額の予定額との間に差があったとしても、直ちに裁判所の判断で増減されるわけではなく、増減されるのは著しく不合理と判断された場合に限られることになります。
従って、違約金の額を定める際には、「著しく不合理」と判断されない範囲で定める必要があります。
金額の一つの目安として、宅建業法38条の定めが参考になります。
同条は、宅建業者が売主となる売買契約においても、売買代金額の2割を超えない額を違約金として取り決めることは宅建業法に違反しないと定めています。
売主が宅建業者ではない場合、2割を超えたからといって、直ちに「著しく不合理」と判断されるわけではないでしょうが、2割を大きく超えて定められていた場合、「著しく不合理」と判断される可能性は高くなるでしょう。
(2)契約不適合と損害賠償の範囲
① 契約不適合責任を負担しない特約を定めることの可否
(ⅰ) 従前の取扱い
従前、瑕疵担保責任に基づく損害賠償額の予定について取り決めしている不動産売買契約書は存在しませんでした。
それは、「瑕疵」とは、売買の目的物が、その種類のものとして取引通念上通常有すべき品質・性能を欠いていることをいうところ、その欠落の程度が大小様々である不動産においては、事前に損害賠償額を取り決めておくことが難しい点があるからです。
そこで、売主が宅建業者ではない一般消費者間の中古住宅の売買では、瑕疵担保責任を排除する特約を設けたり、瑕疵修補以外は請求できない特約を設けたりするなどがされてきました。
(ⅱ) 契約不適合責任を負担しない特約を定めることの可否
結論からいえば、改正民法のもとでも、売主が宅建業者でない場合は、契約不適合責任を改正民法の規定よりも制限する特約や、契約不適合責任を負担しない旨の特約をすることは可能です。
しかし、注意点があります。消費者契約法で、売主が事業者である場合には、契約不適合に基づく消費者の解除権を放棄させる特約は無効とされますし(民法改正整備法による改正後の消費者契約法8条の2)、損害賠償責任を負担しないとする特約は、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合を除き無効となりますから(民法改正整備法による改正後の消費者契約法8条2項)、注意が必要です。
② 契約不適合による損害賠償の範囲
(ⅰ) 従前の取扱い
旧民法の定める瑕疵担保責任は無過失責任であり、瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、瑕疵がないと信頼したことによる利益(信頼利益)の賠償に限られるとされてきました。
しかし、改正民法では、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」として債務不履行の特則として位置づけられました。
債務不履行の特則と位置付けられたということは、その契約が履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益(履行利益)の賠償まで損害賠償の範囲が広がったということです(改正民法564条・415条)。
つまり、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」という用語に変わっただけでなく売主の責任に関する考え方も変わりました。
損害賠償の範囲は、契約不適合と相当因果関係のある損害(通常損害)であり、特別の事情によって生じた損害についても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、その賠償を請求できます(改正民法416条)。
結果として、これまで瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求として信頼利益に限定されていた損害の範囲は拡大すると考えられます。
(ⅱ) 損害額をめぐる紛争に対する対策
損害額をめぐる紛争を防止するには、前述のとおり、売主が宅建業者でなければ、契約不適合責任を排除する特約を設けたり、契約不適合責任を代金減額請求(改正民法563条)に限定したりすることも一つの方法ですが、売主が事業者で買主が消費者の場合には、「事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」は無効とされ(消費者契約法8条1項2号)、契約の内容いかんによっては、「消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」として無効(消費者契約法10条)とされる可能性があります。
そこで、より根本的な対策としては、できる限り契約内容が透明化され取引の公正が確保された内容の契約を締結することが大切です。
不動産売買契約、特に一般消費者間の中古住宅の売買契約においては、売主が取引物件に関する情報を開示する(例えば、土壌汚染に関する調査や地耐力等の地盤調査は売買契約締結前に行い調査報告書を授受する)などして、それに基づく告知書を合理的に活用することも考えられます。
(ⅲ) 告知書を活用することによるメリット
一般的な告知書として考えられるものは、以下のようなものです。
項目 | 状況 | |
建物 |
雨漏り | □現在まで雨漏りを発見していない。 □過去に雨漏りがあった。箇所: 修理工事:未・済 ( 年 月) □雨漏り箇所がある 箇所: |
シロアリの被害 | □現在までシロアリ被害を発見していない。 □シロアリ予防工事 未・済 ( 年 月) □過去にシロアリ被害があった。箇所: 駆除: 未・済 □現在シロアリ被害がある 箇所: |
|
建物の傾き | □発見していない。 □発見している箇所: |
このような告知書は、民法に照らすとどのような意味を持つでしょうか。
旧民法のもとでは、瑕疵担保責任は、無過失責任ですから、「発見していない」とか「知らない」と記載していても、売買目的物がその種類のものとして取引通念上通常有すべき品質・性能を欠いている場合には、売主は瑕疵担保責任を負担します。すなわち、瑕疵担保責任を排除する特約がなければ、告知書の記載にかかわらず、「隠れた瑕疵」に該当する場合には瑕疵担保責任を負うことになります。
改正民法においても、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(改正民法562条1項)には契約不適合責任を問うことができます。
そのため、「発見していない」、「知らない」という内容の告知書は、旧民法でも改正民法のもとでも、あまり意味をなしません。
では、どういった記載をすればよいのでしょうか。この点、告知書の記載内容を
- 「調査をしていないからわからない」
- 「調査の結果発見されなかった」(調査年月日、調査の種類を明記する)
- 「調査はしていないが、告知書作成時点において目視したところ発見できなかった」
など、具体的に記載し、告知書作成時点の写真を添付し、可能であれば、売主と買主とが媒介業者や建物調査会社の立会いのもとに確認するなど売買契約の目的物の品質や性能に関する事項についてできるだけ具体的に記載し、その内容をもとに売買価格を決定する等目的物の性能や品質を契約内容に取り込むことが望ましいです。
そうすることで、予期せぬ契約不適合責任に基づく損害賠償請求を避けることができる可能性が高まります。
6.売主が宅建業者の場合
民法改正整備法による改正後の宅建業法40条は、「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない」と改正され、2項においてこれに違反する特約は、無効とされました。
そのため、契約不適合責任に関する特約を締結する際は、この点に十分注意する必要があるでしょう。
また、以下の記載は、売主が宅建業者以外の場合にも該当しますが、特に取引の機会が多く、売買契約を締結する際に重要事項の説明を行う宅建業者が注意しなければならない点に触れておきます。
上記でも少し触れたように、改正民法のもとでは、「瑕疵担保責任」という言葉が「契約不適合責任」という言葉に置き換わっただけでなく、その効果として買主に以下の4つの請求権が認められました。
①追完請求権 (改正民法562条)
②損害賠償請求権 (改正民法564条)
③解除権 (改正民法564条)
④代金減額請求権 (改正民法563条)
(1)①追完請求権
不動産において、代替物の引き渡しや不足分の追完というものが通常想定できないことから、現実的には修補請求をすることになります。
追完請求権としての修補請求は、旧民法のもとでの売買契約書においても、修補請求を認めているものもあったことから、大きく変更があったわけではありません。
よって、この点の変更は、取引に影響を及ぼす程度は小さいと言えます。
(2)②損害賠償請求権
改正民法における契約不適合責任に基づく損害賠償請求は、債務不履行による損害賠償に関する一般規定の適用により処理します。
旧民法では、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求であったため信頼利益の賠償のみであったのが、履行利益の賠償まで請求できるようになったという意味では、損害賠償請求できる範囲が広くなったと言えるでしょう。
そのため、宅建業者としては、不測の損害賠償請求を受ける事態を避けるため、従前以上に契約の対象となる不動産についてどのような状態にあるかを丁寧に説明し、写真や資料等を添付し説明した内容がしっかりと契約書上に反映されるように注意しなければなりません。
なぜなら、売買契約における「契約不適合」とは、目的物が契約の内容に適合しないことをいうため、きちんと目的物の現況が契約書上明らかになっていれば、買主が契約不適合責任を問う余地が少なくなるといえるからです。
この点は、特に中古不動産の売買契約時に重要になります。
(3)③解除権
改正民法のもとでは、契約不適合と認められた場合、債務不履行の一般原則に従った解除が認められます。
実は、民法改正よる影響がもっとも大きいと予想されるのは、解除に関する主張が増える点であると見込まれています。
なぜなら、旧民法では、契約解除ができるのは、瑕疵の存在により買主が契約した目的を達することができない場合であると明文で定められていたのに対し(旧民法570条、566条1項)、改正民法では、契約不適合の場合に「解除権の行使を妨げない」(改正民法564条)と規定され、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」(改正民法541条但書)以外は契約の解除ができると改正されたからです。
その結果、買主が契約の目的を達成できないとまでは言えない契約不適合があったとしても、当該契約不適合が軽微と言えない場合には解除ができることになります。
軽微といえるか否かは、当該契約及び取引上の社会通念に照らして判断されます。
旧民法のもとで瑕疵担保責任に基づく解除について訴訟になった場合には、契約の目的を達することができるか否かが大きな争点でしたが、改正民法のもとでは、軽微性の有無が争点となり、解除の主張が認められる可能性が高くなったと言えるのです。
(4)④代金減額請求権
旧民法のもとでは、権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任(旧民法563条)として認められていましたが、これが「種類、品質、数量」に関する契約不適合についても認められました。
代金減額請求権は、売主に免責事由があることによって追完請求権が排除される場合においても行使可能であるという点で存在意義が認められるといわれています。
しかし、代金減額請求権は契約の一部解除の性質を有しますから、これを行使すると修補請求、損害賠償請求、契約の解除(全部解除)はできなくなるので、買主はどの権利を行使するかの選択を迫られる点では、注意が必要と言えるでしょう。
(5)民法改正で買主の選択肢が増えたことにより考えられる売主の負担とその対応策
(ⅰ) 買主の選択肢が増えたことにより考えられる売主の負担
上述したように、買主としては、「契約不適合」と判断された場合、選びうる選択肢が増えたという意味で買主保護が充実したといえるのですが、その反面、売主としては、「契約不適合責任」を負う場合、買主の選択によって対応を変えなければならないことになり、売主側の負担は大きくなってしまいます。
(ⅱ) 上記負担に対する対策
そこで、あらかじめ契約書上で、買主が取り得る民法上の選択肢を制限しておく必要があります。
実際、旧民法のもとにおいても、民法上の選択肢を制限し、修補請求に限定している取引が多くありました。
しかし、改正民法で買主の選択肢が増えたことにより、どの選択肢をどのように契約書に取り込み、あるいは、どの選択肢を制限するのか、については慎重に考えなければなりません。
例えば、現在の取引で多く行われている買主の選択肢を修補請求に限定する方法をとる場合、改正民法で新たに認められた代替物請求権や代金減額請求権の行使を制限する約定を結ぶ必要はないのか、また、そのような制限は有効なのか、また、仮に無効となる場合、どのような条項であれば無効となりうるのか、が現状では明らかになっていないといわざるを得ません。
今後裁判例等の集積により基準が明確になっていくと思いますが、現状では基準が明確になっていない以上、これまでの裁判所の判断の傾向や民法改正の趣旨等を考慮して、リスクを回避するための条項の内容について慎重に検討する必要があるでしょう。
7.最後に
今回は、債権法改正を念頭に置きつつ、不動産売買契約書の基本と債権法改正による影響をテーマに解説しました。
2020年4月1日から施行された改正民法は、瑕疵担保責任に関する条文だけではなく、債権法全体を大幅に改正しました。
債権法改正を踏まえて、これまで定型的に利用してきた不動産売買契約書を見直す必要があります。
後の紛争を予防するために、債権法改正を踏まえて、不動産売買契約の締結や契約書の改訂にご不明な点やご不安な点がある場合は、企業法務の経験豊富な法律事務所にご相談されることをお勧めします。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています