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eスポーツの法的諸問題②~知的財産権(著作権)
1.はじめに
本稿では、別稿「eスポーツの諸問題①~景品表示法を中心に」に続き、eスポーツと知的財産権(著作権)について解説を試みます。
2.著作物としてのビデオゲーム
eスポーツは、ビデオゲームを通じて行われますが、ビデオゲームは「何の」著作物で、著作権者(通常はゲームの製作・販売会社が著作権者になります)はいかなる権利を享受できるのでしょうか。
過去にビデオゲームと著作権が問題になった事例を通じて確認してみましょう。
(1)プログラムの著作物
まず、ビデオゲームをゲームとして動作させるプログラム自体は、プログラムの著作物であることに間違いはありません(著作権法第10条第1項第9号)。
このプログラムの著作物としての側面が問題になった例として、かつてゲームソフトのプログラム自体には改変を加えないものの、ゲームの展開を変えるメモリーカードの製造、輸入、販売行為、及び当該カードを用いてゲームを行う行為が同一性保持権の侵害になるか、という論点がありました。
例えば、ときめきメモリアル事件最高裁判決(最判平13・2・13/判時1740号78頁)で問題となったメモリーカードでは、本来低い値から始まるべき主人公のパラメータがゲーム開始当初から最高値であったり、本来ゲームの終盤である卒業間近の場面から始められたりするデータが記録されていました。
また、三國志Ⅲ事件東京高裁判決(東京高判平11・3・18/判時1684号112頁)では、ゲーム中に登場する武将のパラメータを通常プレイ時の最大値である100よりも高く設定することを可能としていました。
ゲームの場合には、個々のプレイヤーの入力操作次第でゲーム展開が異なり、一定の固定的なゲーム展開が存在するものではないため、下級審判決では、同一性保持権の侵害を否定する例が多かったのですが、上記ときめきメモリアル事件最高裁判決は、「本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。
けだし、本件ゲームソフトにおけるパラメータは、それによって主人公の人物像を表現するものであり、その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ、本件メモリーカードの使用によって、本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになるからである」と判示して同一性保持権の侵害を認めました。
この判決以降、当然ながら、実務はこの判旨に沿って行われていますが、著作権の保護対象である具体的な表現を超えて、ストーリー展開まで保護対象としているのではないかの批判があるところですが、この種のメモリーカードを放置することは問題であり、結論としては妥当と思われます。
(2)映画の著作物
次に、ビデオゲームの映像=ビジュアル面ですが、これは映画の著作物(著作権法第10条第1項第7号)とされています。
ビデオゲームは、本来単独又は特定少数のプレイヤーが閉鎖された空間(屋内)の中で娯楽として楽しむことを想定して制作されており、公衆に対する上映を本来の目的としている映画とは全く趣を異にするものですから、映画の著作物というには違和感を覚える向きもあろうかと思います。
しかし、著作権法第2条第3項においては、「この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする」と定義されているので、映画の著作物は映画類似の創作物をも含みます。
とはいえ、ビデオゲームの場合は、上記のとおり、個々のプレイヤーの入力操作次第でゲーム展開が異なるので、「物に固定されている」との要件を充たすといえるのかどうかについてはかつて争いがあり、下級審では肯定例と否定例の正反対の結論が出ることもありました。
この争点は、中古ゲームソフト事件最高裁判決(最判平14・4・25/判時1785号3頁)において決着し、ビデオゲームは映画の著作物であることが確認されました。
本判決の原々審である大阪地裁判決(大阪地判平11・10・7/判時1699号48頁)は、「『映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され』ているとは、右に述べた『映画』と同様の視覚的又は視聴覚的効果を生じさせるもの、すなわち、多数の静止画像を映写幕、ブラウン管、液晶画面その他の物に急速に連続して順次投影して、眼の残像現象を利用して、『映画』と類似した、動きのある影像として見せるという視覚的効果、又は右に加えて影像に音声をシンクロナイズさせるという視聴覚的効果をもって表現されている表現物をいうものと解するのが相当である」、「本件各ゲームソフトは、CDーROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであり、そのデータはいずれもCDーROM中に記憶されているものであるから、右に述べたところの固定性の要件に欠けるところはない」旨判示しましたが、本判決は、かかる判断を是認した原審大阪高裁判決(大阪高判平13・3・29/判時1749号3頁)を是認したものです。
仮に映画の著作物と認められなくとも、プログラムの著作物であることから、その著作物性は揺るがないのですが、映画の著作物であることは特別の意味があります。
映画著作物のみに頒布権が認められているからです(著作権法第26条)。
因みに、現在上映権は著作物一般に認められていますが(著作権法第22条の2)、平成11年の著作権法改正前は映画著作物のみに認められていました。
3.eスポーツと著作権
以上のとおり、ビデオゲームがプログラム及び映画の著作物であることを踏まえた上で、eスポーツと著作権について解説します。
(1)ゲームをプレイすること
私達が野球やサッカーを始めとするスポーツをするときにはもとより誰の許可も必要ありません。
では、ビデオゲームをプレイすることと著作権者の権利とはどのような関係にあるのでしょうか。
著作権者の諸々の権利の一つに上映権があります。「上映権」とは、著作物を公に上映する権利をいい(著作権法第22条の2)、「上映」とは、著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写すること(これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含む。)をいい(著作権法第2条第1項第17号)、「公に」とは、著作物を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすることをいい(著作権法第22条)、更に「公衆」とは、不特定多数は勿論のこと、特定かつ多数の者を含むとされています(著作権法第2条第5項)。
要するに、特定少数以外は「公衆」に該当します。
ビデオゲームにおいては、ゲーム映像をディスプレイ上に表示させることが上映に該当しますが、プレイヤーがビデオゲームを自宅で個人的に楽しむ分には公衆に直接見せ又は聞かせることを目的としておりませんので、上映権を侵害することはなく、一々著作権者からプレイすることの許諾を得る必要はありません。
もっとも、ゲームをプレイするに当たり、著作権者が設定した利用規約等があれば、それは守る必要があります。
(2) 大会・イベント等の開催(映像配信を伴わない場合)
例えば、多くのプレイヤーや観客を集めてある格闘ゲームの勝ち抜き大会を企画したとしましょう。
上記のとおり、特定少数以外は公衆に該当することから、かようなeスポーツ大会は、公衆に対して直接ゲーム映像を見せることを目的として企画されることになりますので、映画の著作物の上映に該当します。
この点、著作権法第38条第1項は、「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもってするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。
ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない」と定めていますので、大会主催者が営利を目的とせず、かつ、プレイヤーや観客から料金を徴収しない分にはゲームの著作権者から上映権の諾を得る必要はありませんが、そうではない場合は、かかる許諾を得る必要があるということになります。
もっとも、ゲームの著作権者の中には、ゲーム内にプレイヤーが自由に大会・試合を行うことができるモードを標準設定していたり、プレイヤーによる大会の開催を想定して予めその条件を詳細に定めたりしている例も見受けられます。
さて、大会・イベントとはいえないまでも、インターネットカフェその他の店舗の営業者が、店舗にゲーミングPC等を設置し、来客が店舗で利用可能なゲームをプレイするような場合はどう評価したらよいでしょうか。
勿論、来客は店舗の利用に対する料金を支払っているとします。
このような場合は、当該店舗側が、有償で不特定多数の来客即ち公衆にゲーム映像を鑑賞できる状態にすることを目的としていると評価し得るので、上映権の侵害となるといってよいでしょう。
この点、店舗側が場所、ゲーム機器、ゲームソフトを管理し、来客から料金を徴収し利益を得ていることから、上映をしている主体は来客ではなく、店舗側と考えられます。
この考え方は、クラブキャッツアイ事件最高裁判決(最判昭63・3・15/民集42巻3号199頁)で示されたいわゆる「カラオケ法理」と称されるもので、「支配管理要件」と「営利目的要件」の二本柱で著作権侵害の主体を認定する手法です。
(3) 大会・イベント等の開催(映像配信を伴う場合)
eスポーツの大会・イベントは、従来のスポーツと同様に、現実のスタジアムやイベントホールを使用して観客を募り、プレイヤーがゲームをプレイしている模様を大画面スクリーンに映し出して観客がそれを鑑賞できるようにするとか、その様子を映像としてインターネット配信して観客以外の観衆も鑑賞できるようにすることなどが一般的に行われています。このようなことを行うには、大会主催者が営利を目的とせず、かつ、プレイヤーや観客から料金を徴収しない場合であっても、公衆送信権と送信可能化権の許諾を著作権者から得る必要があります。
著作権法第38条第1項に基づく非営利目的上映等の場合の例外に相当する規定がないからです。
この点、皆様は、YouTube等の無料動画投稿サイトで、ゲームのプレイ画面の動画が氾濫しているのを目の当たりにしていることと思います。
この場合、かような動画をアップロードした者は、視聴者から料金を徴収することはなく、営利目的を有していないと思われますが、こうした行為は、著作権者の許諾を得ない限り、明らかに著作権侵害行為ということになります。
ただ、任天堂が公表したガイドライン[1]のように、一定のルールを遵守する限りは、ゲームのプレイ映像の投稿につき著作権者が許容している例もあります。
これは、任天堂のような企業にとっては、このような動画投稿サイトがむしろ良い宣伝になっていることからの配慮といえるでしょう。
なお、eスポーツのテレビ放送については、eスポーツを取り扱う番組も近時増えてきたとはいえ、実務的な権利処理が確立されたとはいえない状況です。
この点、一般社団法人日本eスポーツ連合の報告書[2]によれば、「検討会では、IP利用の許諾をどのように取得してよいのか分からない、許諾の取得方法が分かったとしても、その手続きの猥雑さから大会開催やテレビ報道の機会を逸しているのではないかといった意見があり、IP利用・許諾に関するガイドラインを策定し、そこで提示する一定の範囲内であれば、無許諾でIPを利用することを認めてはどうかという提言があった」(報告書35頁)とされているところです。
かかる記述は、大規模利用になればなるほど知的財産権の権利処理については複雑さと不透明さが増幅し、特にテレビ放送事業者という巨大な利害関係者を巻き込むことになるテレビ放送においては、誰にとってもクリアな権利処理を実現するにはなお時間を要することの表れといえるでしょう。
4.おわりに
本稿では、eスポーツと著作権に関する基本的な事項を説明してきましたが、eスポーツにおける著作権のクリアランスについてはまだまだ不透明な部分があり、今後の進展が見逃せない分野であります。
筆者としても、不断の研究を怠らず、意義深い進展については、随時追加の原稿を掲載する予定です。
それを通じ、皆様がeスポーツの法的側面に対する理解を深めることの一助になれば幸いです。
[1] 平成30年11月29日「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html)
[2] 令和2年3月「日本のeスポーツの発展に向けて~更なる市場成長、社会的意義の観点から~」と題する報告書(https://jesu.or.jp/wp-content/uploads/2020/03/document_01.pdf)
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています