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会社法改正―【社外取締役活用等に向けた規律の見直し】
1.はじめに
2019年(令和元年)12月11日、改正会社法(以下「改正法」といいます。)が公布されました。
また、改正法は、株主総会資料の電子提供制度に関するものを除き、2021年(令和3年)3月1日に施行されました。
なお、今回の会社法改正では、複数の改正点の中でも、コーポレート・ガバナンスの観点からは、取締役に関するルールの見直しがなされたことが、最も重要な改正内容といえます。
改正法では、大きく分けて①株主総会、②取締役等、③その他(社債の管理等)の3項目に関する見直しが行われましたが、本記事では、上記②取締役等に関する規律の見直しのうち、社外取締役の活用等にフォーカスして解説いたします。
今回定められた社外取締役の活用等に関する規律は、a.業務執行の社外取締役への委託、b.社外取締役を置くことの義務付けの2つです。
以下でその詳細を解説いたします。
なお、本記事において掲載する条文番号は、断りのない場合、改正会社法のものとなります。
2.業務執行の社外取締役への委託
まず、a. 業務執行の社外取締役への委託について説明します。
(1)改正の背景
1)社外取締役の要件と役割
会社法は、業務執行取締役でなく、かつ、過去10年間業務執行取締役でなかったことを社外取締役の要件のひとつとしています(2条15号イ)[1]。
社外取締役には、①業務執行全般を監督する機能のほか、②利益相反行為に対する監督機能が期待されています[2]。
近時では、株主と、買収者である取締役との間に利益相反関係が認められるとも考えられるMBO(マネジメント・バイアウト)の他、株式会社と利害関係者との利益相反が問題となる場合において、取引の公正さを担保するために、社外取締役が当該MBO等の検討、交渉等の対外的行為を伴う活動をする場合があり、上記期待された役割を果たしている例と評価できるでしょう。
2)問題点
しかしながら、条文上、取締役が「当該株式会社の業務を執行した」場合、社外取締役の要件を満たさなくなります。
上述のようなMBOの交渉等を含めた対外的行為を伴う活動が「業務を執行した」に当たるものと考える場合、社外取締役に期待された役割に沿う形であるにもかかわらず、これによって社外取締役該当性が否定されることとなります。
このようなことから、「業務を執行した」という文言の解釈によっては、社外取締役の活動機会を過度に制約してしまうおそれがあるという指摘や議論は従前よりなされていました[3]。
これらを受けて、今回の改正では、以下のような規定が設けられることとなりました。
(2)改正の概要
上記(1) 2)の社外取締役の活動機会を過度に制約してしまうという問題点を踏まえ、いわゆるセーフ・ハーバー・ルール(これに従って行動する限りは、適法又は違反にはならないとされるルール)に従って、社外取締役の活動範囲を緩和する上記改正法が規定されました。
また、348条の2[4]の規定は、あくまでセーフ・ハーバー・ルールとして安全な範囲を定めたに過ぎないものであるため、従来「業務を執行した」に該当しないと考えられていた行為について、今回の改正によって「業務を執行した」に該当するものとして取扱うことを意図しているものではないとされています[5]。
また、適用場面については、348条の2第1項に定められているとおり(註4参照)、「当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるとき」となります。
上述した社外取締役の利益相反監督機能については、法356条1項2号及び3号に規定されている利益相反取引に限定して期待されているものではないことから、これに該当しない場合についても、より広く「当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき」に含めて考えるもの(348条の2第1項の適用場面)とされています。
典型的には、上述したような株主と買収者である取締役との間に利益相反関係が認められるとも考えられるMBOのほか、現金を対価とするキャッシュアウト(少数株主の締出し)の場合等、社外取締役による監督機能発揮が期待されるとき(少数株主の利益をないがしろにすることが懸念される場合等)には「当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき」に含まれると想定されています[6]。
さらに、348条の2第1項の業務執行の社外取締役への委託の決定については、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によ」る、とされており、解釈上、取締役会はかかる決定を取締役に委任することができないものとされています。
なお、399条の13第5項6号[7]にあるとおり、監査等委員会設置会社においても同様であり、また、指名委員会等設置会社における執行役についても348条の2第2項、416条4項6号[8]において同様の規定がなされています。
加えて、社外取締役がどこからの監視・監督も受けずに業務執行し続けることのないよう、「その都度」の取締役会決定が要件とされました(註4。348条の2第1項および第2項)。
(3)留意点
上記(2)のとおり、今回の改正ではセーフ・ハーバー・ルールとして規定がなされたにすぎないため、いまだ多くの解釈問題を孕んでいます。そのため、今後も実務上での動向には注意しなければなりません。
また、今後、株主と取締役間の利益相反取引に該当し得るケースにおいて、社外取締役が行う行為が「業務を執行した」に当たる可能性がある場合には、取締役会の決議を行っておく等の対策をとる必要があるでしょう。
3.社外取締役を置くことの義務付け
次に、b.社外取締役を置くことの義務付けについて説明します。
(1)改正の背景
社外取締役の設置義務については、従前より活発に議論がなされていたものの、意見に強い対立が見られたため、設置の義務付けそのものは、2014年(平成26年)における会社法改正(以下「平成26年改正」といいます。)では見送られました。
他方で、平成26年改正において、上場会社等で社外取締役を置いていない場合には、取締役は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないこと(コンプライ・オア・エクスプレイン・アプローチ[9])とされました(改正前会社法327条の2)。
また、平成26年改正の際の附則25条では、「政府は、この法律の施行後2年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする」とされました。
その後、平成26年改正から2年が経過したこともあり、再度、社外取締役の設置義務の議論がなされたものの、なお意見の対立の解消はされませんでした。
このような議論の経緯を踏まえ、改正法327条の2[10]は、適用対象を「監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの」(上場会社等)に限定したうえで、以下のとおり社外取締役の設置義務が設けられました。
(2)改正の概要
1)解説
あえて簡単にいうのであれば、「上場会社等は、社外取締役を置かなければならない」という内容になります。
また、違反した場合の罰則規定(過料)も設けられました(976条第19号の2[11])。
2)経過措置
附則5条では、改正法327条の2の規定は、改正法の施行後、最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、適用しないこととされました。
もっとも、上記例のように改正会社法が適用されない上場会社等においても、現行会社法327条の2に規定される「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務は発生するため、いずれにせよ、社外取締役の設置義務を意識すべきことになります。
今回の改正会社法は、2021年(令和3年)3月1日に施行されたため、例えば、2021年(令和3年)3月決算である場合には、同年6月開催の当該事業年度における定時株主総会の終結時までしか、上記経過措置によって、適用除外とはならないこととなります。
なお、ここでの説明義務についても、社外取締役を置くことが相当でない理由とされていることから、会社の個別具体的な事情に照らして説明をする必要があり、株主総会において、合理的な平均株主を基準として、出席株主が内容を理解できる程度に具体的に行われる必要があると解されています。[12]
(3)留意点
1)取締役会決議の効力
社外取締役の選任が義務付けられた後に社外取締役に欠員が生じた場合、かかる状態で取締役会決議を行った際の無効リスクが懸念されます。
2)過料
社外取締役が欠けた際の過料のおそれがあるものの、遅滞なく社外取締役が選任される場合には直ちに過料の制裁が科されることにはならないと解釈することができると法務省法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では指摘されています[13]。
この点については、過料の制裁としての性質から勘案するに妥当であると考えられます。
3)対応策
会社法上考えられる対応策として、補欠役員の選任(329条3項)、権利義務取締役(346条1項)、一時役員の適用(同条2項)による方法が考えられています[14]。
4.おわりに
今回の改正の内容は、これから上場を目指す企業や、そうでない中小企業においても、その考え方を知ることは、ガバナンス強化の観点から非常に有用と考えられます。
また、上述してきたとおり、今回の改正会社法には、解釈問題を多分に孕んでいるため、今後の実務及び議論の動向を注視し続ける必要があります。
特に、業務執行の社外取締役への委託に関しては、裁判例等の蓄積を待つ必要があるものと考えられるため、ある程度明確な判断ができるまで時間が必要となるでしょう。
[1] 2条15号イ(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
⑮ 社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第363条第1項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
[2] 坂本三郎編著『一門一答 平成26年改正会社法[第2版]』(商事法務、2015)19頁
[3] 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案40頁
[4] 348条の2(業務の執行の社外取締役への委託)
1.株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
2.指名委員会等設置会社と執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他執行役が指名委員会等設置会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該指名委員会等設置会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該指名委員会等設置会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
3.前2項の規定により委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。ただし、社外取締役が業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)の指揮命令により当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。
[5] 同上
[6] 法務省法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会 部会資料20
[7] 399条の13第5項6号(監査等委員会設置会社の取締役会の権限)
5.前項の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。ただし、次に掲げる事項については、この限りでない。
⑥ 第348条の2第1項の規定による委託
[8] 416条4項6号(指名委員会等設置会社の取締役会の権限)
- 指名委員会等設置会社の取締役会は、その決議によって、指名委員会等設置会社の業務執行の決定を執行役に委任することができる。ただし、次に掲げる事項については、この限りでない。
⑥ 第348条の2第2項の規定による委託
[9] 遵守、さもなければ説明せよ、つまり、強制せず、自分で考えて判断・選択し、説明しなさい、という規範。
[10] 327条の2(社外取締役の設置義務)
監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。
[11] 976条19号の2(過料に処すべき行為)
(前略)次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
19号の2 第327条の2の規定に違反して、社外取締役を選任しなかったとき。
[12] 太田洋/高木弘明編著『平成26年会社法改正と実務対応』(商事法務、2014)37頁
[13] 同部会 部会資料27の13頁
[14] 同部会 部会資料26の12頁
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