企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
下請法の対象範囲は資本金規模で決まる!取引類型ごとの事業者要件をわかりやすく解説
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、取引構造上不利な立場に置かれる下請事業者を保護するために、親事業者に一定の規制を及ぼす法律であり、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)を補完する役割を担っています。
そして、下請法の規制対象に含まれると、親会社にはさまざまな義務・禁止事項が課されるため、事業を展開する際には下請法の適用範囲に注意が必要です。
そこで、今回は、下請法の対象範囲を決する主要要件である「事業者の資本金額」について解説します。
あわせて、資本金要件を決定付ける取引内容や、資本金要件の潜脱防止制度も紹介するので、さいごまでご一読ください。
1.下請法の対象範囲を決める資本金要件と取引類型の関係
下請法の適用対象範囲は、取引事業者の資本金額・取引内容の2側面で定められています。
まずは、取引内容ごとに設定されている事業者の資本金要件を具体的に見ていきましょう。
取引内容 | 親事業者の資本金要件 | 下請事業者の資本金要件 |
・物品の製造委託
・物品の修理委託 ・プログラムの作成委託 ・運送・物品の倉庫保管・情報処理委託 |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人事業主を含む) |
資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人事業主を含む) |
取引内容 | 親事業者の資本金要件 | 下請事業者の資本金要件 |
・プログラム以外の情報成果物の作成委託
・運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務の提供委託 |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人事業主を含む) |
資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人事業主を含む) |
下請法は、親事業者が下請事業者に対して不利益をおしつける行為について、独占禁止法を補完し、簡易迅速に救済するための法律です。
したがって、対象となる事象を形式的に判断できるような要件を設定しています。
そのため、親事業者と下請事業者の資本金額に一定の乖離がある場合を下請法の対象範囲とし、下請法の対象範囲に含まれる親事業者にはさまざまな義務・禁止事項を定めています。
なお、事業活動の安定性を維持するために、資本金額1,000万円超の事業者が第三者に業務委託をする場合には常に下請法の適用を受けると考えるべきでしょう。
2.下請法の資本金要件を決定付ける4つの取引類型
下請法の対象範囲を明確化するには、資本金要件の判断基準になる「取引内容」を理解する必要があります。
下請法の対象取引内容は以下4類型に区分されるので、それぞれ具体的に見ていきましょう。
- 物品の製造委託
- 物品の修理委託
- プログラムを含む情報成果物の作成委託
- 運送・物品の倉庫保管・情報処理を含む役務提供委託
(1)製造委託
製造委託とは、物品の販売・製造を請け負っている事業者が、規格・品質・形状・デザイン・ブランドなどを指定して、他の事業者に物品の製造・加工などを委託する下請取引のことです。
物品に含まれるのは動産だけで、土地・建物などの不動産は含まれません。
製造委託に含まれる取引内容は以下の4タイプに分類可能です。
- 業として物品の販売を行っている事業者が、その物品・部品などの製造を他の事業者に委託する
- 業として物品の製造を請け負っている事業者が、その物品・部品などの製造を他の事業者に委託する
- 業として物品の修理を行っている事業者が、その物品の修理に欠かせない部品・原材料の製造を他の事業者に委託する
- 自社で使用・消費する物品を業として社内で製造している事業者が、その物品・部品などの製造を他の事業者に委託する
たとえば、自動車メーカーが自動車の部品の製造を部品メーカーに委託するケース、家電メーカーが販売製品の修理用部品の製造を部品メーカーに委託するケースなどが挙げられます。
また、印刷業や金型製造業もこれに含まれます。
(2)修理委託
修理委託とは、物品の修理を請け負っている事業者が、修理を請け負った物品や社内用の物品修理について、他の事業者に委託する下請取引のことです。
修理とは「元来の機能を失った物品に一定の工作を加えて機能を回復させること」を意味するため、「点検・メンテナンス」とは区別されます。
たとえば、点検・メンテナンスの結果、当該物品が正常に稼働していることが確認された場合には、点検・メンテナンス作業は「役務提供委託」として下請法の対象になりますし、点検・メンテナンスによって物品の異常性が明らかになった場合には、修理作業まで含めて「修理委託」として下請法対象取引と分類されます。
修理委託に含まれる取引内容は以下の2タイプに分類可能です。
- 物品の修理を業として請け負っている事業者が、修理行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
- 自社で使用する物品を業として自社で修理している事業者が、その物品の修理行為の一部を他の事業者に委託する
たとえば、自動車ディーラーが修理を請け負った自動車の修理作業を修理会社に委託するケース、自社工場の設備を社内人員で修理している工作機器メーカーがその設備の修理作業を修理会社に委託するケースなどが挙げられます。
(3)情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、情報成果物の提供・作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託する下請取引のことです。
そして、情報成果物には、プログラム(ゲームソフトや会計ソフトなど)、映像・音声・音響などによって構成されるもの(映画や放送番組など)、文字・図形・記号などで構成されるもの(設計図やポスターなど)が幅広く含まれます。
完成品だけではなく、付属品・内部部品・設計図・デザインなども対象です。
除法成果物作成委託に含まれる取引内容は以下の3タイプに分類されます。
- 情報成果物を業として提供している事業者が、当該情報成果物の作成行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
- 情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が、当該情報成果物の作成行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
- 自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている事業者が、その作成行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
たとえば、ソフトウェア販売メーカーがソフトの開発作業をシステムエンジニアに発注するケース、広告会社が受注したCM制作を制作会社に発注するケースが挙げられます。
なお、冒頭で紹介したように、情報成果物作成委託は、取引対象である情報成果物が「プログラムか否か」によって下請法対象事業者の資本金要件が区別される点に注意が必要です。
(4)役務提供委託
役務提供委託とは、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に再委託する下請取引のことです。
たとえば、運送業・ビルメンテナンス業・清掃業などが幅広く含まれます。
ただし、建設工事を請け負う建設業者は下請法の対象外です。
なぜなら、建設業法には請負事業者を保護する目的で下請法同種の規定が置かれているため、わざわざ下請法を適用する意味がないからです。
また、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託とは異なり、役務提供委託は「他者に提供する役務」だけが対象とされます。
つまり、自社内で提供する役務を他の事業者に委託したとしても、下請法上の「役務提供委託」には該当しないということです。
参照:「Q1 建設工事の請負には本法の適用がないとのことだが、建設業者には本法の適用がないと考えてよいか。」公正取引委員会HP
3.下請法の資本金要件についての注意点
親事業者の方が下請事業者よりも資本金が少ないケースや、親事業者の方が下請事業者よりも資本金が多くても下請法所定の資本金要件を満たさないケースでは、下請法の規制は及びません。
たとえば、A(資本金2億円)がB(資本金1億円)に対して物品の製造委託をしたとしても、資本金要件を満たさないので下請法の規制対象外と扱われるのが原則です。
ただし、下請法の資本金要件については、以下2点に注意する必要があります。
- 子会社を利用しても下請法の資本金要件は潜脱できない
- 取次ぎは下請取引ではないので資本金要件を満たしても下請法の規制対象外
(1)下請法の資本金要件を潜脱するために子会社を介するのは禁止(トンネル会社規制)
下請法の規制対象になるには、親事業者・下請事業者ともに資本金要件を満たす必要があります。
これを逆から捉えると、資本金要件を満たさない限り、下請法の規制対象にはならないということです。
そして、この制度を厳格に運用するために、子会社(トンネル会社)を介して資本金要件を潜脱することも禁止されています(トンネル会社規制)。
トンネル会社規制とは、事業者が直接下請事業者に対して委託をすれば下請法の資本金要件に抵触する状況において、子会社を通じて下請事業者に委託することによって資本金要件を回避するのを禁止するルールのことです。
①親会社と子会社との間に支配関係が存在すしたり、②関係事業者間の取引実態が空洞化している場合に、子会社が「みなし親事業者」と認定されて下請法の規制が及ぶとされます。
たとえば、親会社A(資本金5億円)が下請事業者C(資本金1億円)に対して直接物品の製造委託をすれば下請法の資本金要件を満たしますが、子会社B(資本金2億円)と下請事業者C(資本金1億円)との間の物品の製造委託なら下請法の資本金要件を満たしません。
しかし、ABに事業の一体性が認められる場合には、この2つのケースについて下請法上異なる取扱いをするのは適切ではないでしょう。
したがって、下請法の資本金要件は、取引実態が総合的に考慮される実質的な要件だといえるでしょう。
規制の対象になっているかは、公正取引委員会の実務上の考えなどを踏まえて検討する必要があります。
参照:「Q3 親子会社間や兄弟会社の取引にも、本法が適用されるか。」公正取引委員会HP
(2)取次ぎは下請法の規制対象外
下請法の資本金要件を満たす場合でも、製造委託などの内容にはまったく関与せずに、事務手続きの代行(注文書の取次ぎ・下請代金の請求など)しか行っていないケースは、下請取引ではなく「取次ぎ」でしかありません。
したがって、このような事業者について下請法の規制は及ばないと考えられます。
4.下請法の対象になる資本金要件を満たした親事業者の義務・禁止事項
下請法の規制が及ぶとなると、親事業者には次のような義務・禁止事項が科されます。
違反時には、報告徴収や立入検査を受けるだけではなく、違反行為に対する勧告が実施されます。また、法人代表者等に対して 50万円以下の罰金が科される可能性もあるので注意が必要です。
- 3条書面の交付義務(3条)
- 5条書面の作成義務・保存義務(5条)
- 下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)
- 遅延利息の支払義務(4条の2)
- 受領拒否の禁止(4条1項1号)
- 下請代金の支払遅延の禁止(4条1項2号)
- 下請代金の減額の禁止(4条1項3号)
- 返品の禁止(4条1項4号)
- 買いたたきの禁止(4条1項5号)
- 購入・利用強制の禁止(4条1項6号)
- 報復措置の禁止(4条1項7号)
- 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(4条2項1号)
- 割引困難な手形の交付の禁止(4条2項2号)
- 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(4条2項3号)
- 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(4条2項4号)
まとめ
下請法の対象範囲か否かを判断するには、取引内容に応じて設定される資本金要件を確認するのが先決です。
ただし、形式的には資本金要件を満たさない状況でも、実質的判断に基づいて下請法の適用を受ける可能性があります。
特に、近年では取引構造が複雑化しているため、取引当事者が知らない間に下請法違反を犯してしまっているケースも少なくありません。
したがって、資本金1,000万円を超える事業規模で委託を行う場合には、下請法の規制が及ぶという前提でコンプライアンスを徹底するべきでしょう。
違反時のペナルティ次第では事業に大きな士業が出ることもありますので、取引中に迷いが生じたらすみやかに弁護士などにご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています