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下請法とは?対象行為・対象企業の分類と違反行為発生時のペナルティをわかりやすく解説
原則として、資本主義社会においてどのような企業活動をするかは各社の自由です。
しかし、企業規模・企業活動の種類に差異がある以上、何の規制も存在しない完全な自由活動を認めると、かえって「公正・自由な競争」が実現せず、ひいては経済社会が円滑に循環しないリスクが生じかねません。
そこで、今回は、公正・自由な競争の実現を目指すために制定されている「下請法」について解説します。
特に、対象取引・対象企業といった下請法の適用範囲について詳しく紹介するので、さいごまでご一読ください。
1.下請法とは
下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
まずは、下請法の概要について具体的に見ていきましょう。
(1)下請法の目的・立法趣旨とは
事業の性質上、不利な立場に置かれやすい「下請事業者」の利益を保護するとともに、強い立場の「親事業者」による不公正な取引(下請代金の支払い遅延など)を防止することによって、社会経済の健全な発達を図ることが目的とされています(第1条)。
構造上、親事業者と下請事業者との間にはパワーバランスの不均衡が存在します。にもかかわらず、その不均衡を無視して「経済主体としての責任」を全面に押し出してしまうと、下請事業者が理不尽を強いられかねません。
したがって、下請法は、このような親事業者・下請事業者の位置付け・構造的性質を踏まえたうえで、双方の円滑・適法な社会経済活動実現を目的とする法制度だといえるでしょう。
(2)下請法と独禁法の関係とは
下請法と同様に「公正競争の実現・社会経済活動の適正化」を目的とする法律として、独禁法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)が挙げられます。
独禁法とは、公正な自由競争を妨げる要因となる事業活動全般(私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法・カルテル形成等)を禁止することによって、国民経済の民主的かつ健全な発達の促進を目的とする法律のことです。
その中には、優越的地位の濫用という、下請業者のような弱い立場を保護する違反類型もあります。
ただし、独禁法は評価が必要な条文も多く、直ちに簡易迅速に問題解決をしなければならない下請業者の立場に合っていないところがありました。
そのために、下請法が別途作られました。
したがって、独占禁止法が公正競争阻害行為全般を規制対象にしているのに対して、下請事業者保護が対象領域の下請法は独占禁止法の補完的役割を担っていると考えられます。
(3)下請法違反の効果・制裁とは
親事業者が下請法違反を生じた場合、中小企業庁・公正取引委員会は次のような措置を採ります。
- 報告徴収
- 立入検査
- 是正措置等の勧告
- 事業者名・違反事実の概要・勧告の概要等の公表
さらに、書面の交付義務違反や報告徴収手続き拒否・虚偽報告などに対しては、法人代表者・当該従業員及び法人自体(両罰規定)に対して50万円以下の罰金刑も科せるようになっています(第10条~12条)。
2.下請法の対象取引と対象企業とは
下請法の対象範囲は、「取引内容」「取引当事者の事業規模」で決められています。
すべての親事業者・下請事業者の取引に適用されるわけではありません。
そして、対象範囲を明確にするには、対象取引内容の区別から入ると分かりやすいでしょう。
なぜなら、対象取引の内容ごとに取引当事者の事業規模要件が定められているからです(第2条1項~8項)。
なお、製造委託などの取引内容についても厳密に定義がされているため、本稿では立ち入りませんが、下請法の適用判断の上では検討が必要です。
下請法の対象範囲を定義する取引内容区分は以下の通りです。
・物品の製造委託
・物品の修理委託 ・情報成果物委託(プログラム作成のみ) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理のみ) |
・情報成果物委託(プログラムの作成”以外”)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理”以外”) |
(1)物品の製造・修理委託及び情報成果物委託(プログラムの作成)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理)
対象取引内容が「物品の製造委託・物品の修理委託・情報成果物委託(プログラム作成のみ)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理のみ)」の場合の対象事業者は次の通りです。
親事業者の資本金規模 | 下請事業者の資本金規模 |
資本金3億円超の法人事業者 | 資本金3億円以下(個人事業者を含む) |
資本金1千万円超3億円以下の法人事業者 | 資本金1千万円以下(個人事業者を含む) |
(2)情報成果物委託(プログラムの作成を除く)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)
対象の取引内容が「情報成果物委託(プログラムの作成”以外”)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理”以外”)」の場合の対象事業者は次の通りです。
親事業者の資本金規模 | 下請事業者の資本金規模 |
資本金5千万円超の法人事業者 | 資本金5千万円以下(個人事業者を含む) |
資本金1千万円超5千万円以下の法人事業者 | 資本金1千万円以下(個人事業者を含む) |
3.親事業者の下請事業者に対する4つの義務
下請法の適用を受ける場合、親事業者には次のような義務が課されます。
これらの義務違反を生じた場合には、報告徴収・是正措置等の対象になる可能性が高いです。
- 下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)
- 書面の交付義務(第3条)
- 遅延利息の支払義務(第4条の2)
- 書類の作成義務・保存義務(第5条)
(1)下請代金の支払期日を定める義務
(下請代金の支払期日)
第2条の2
1項 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
2項 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。
親事業者は、商品・役務の給付を受領した日から起算して60日以内に下請代金の支払期日を定める必要があります。
下請取引の場合、契約継続などの決定権を親事業者が握っていることが多く、下請事業者が適切なタイミングで下請代金を受領できないケースが少なくありません。
そこで、下請事業者が代金を受領できず事業継続に支障が出るのを防ぐ趣旨から、親事業者に支払期日の決定義務が課されています。
(2)書面の交付義務
(書面の交付等)
第3条
1項 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2項 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
親事業者には、製造委託等(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託)をした場合、すみやかに必要事項を記載した書面を交付する義務が課されています。
これは、いわゆる「3条書面」と呼ばれるものです。
下請法の3条書面に掲げる記載事項は「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載項目等に関する規則」において以下のように定められています。
- 親事業者・下請事業者の名称(当事者特定に必要な情報記載で足りる)
- 製造委託等をした日時
- 下請事業者による給付内容
- 下請事業者による給付受領期日
- 下請事業者から給付を受領する場所
- 下請事業者からの給付につき検査を要する場合には検査完了日
- 下請代金の額
- 下請代金の支払期日
- 支払方法や決済方式の詳細(手形、一括決済方式、電子記録債権など)
- 原材料等の有償支給についての定め
(3)遅延利息の支払義務
(遅延利息)
第4条の2
親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかったときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して六十日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
親事業者が契約所定の期日までに下請代金の支払いを済ませなかった場合、「給付受領日から60日を経過した日」を起算点として年利率14.6%の遅延利息を支払う義務が課されます。
これは、一定のペナルティを科すことで親事業者に支払期日の遵守を求めるとともに、支払い遅延によって被害を受ける下請事業者を経済的に保護しようという趣旨に基づくものです。
(4)書類の作成義務・保存義務
(書類等の作成及び保存)
第5条
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託をした場合にあっては、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成し、これを保存しなければならない。
親事業者には、下請事業者に対して製造委託等をした場合に、「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」所定の記載事項を掲げた書面を作成・保存する義務が課されています。
いわゆる「5条書面」と呼ばれるものです。
これは、以下の記載事項を記した書面を親事業者に作成・保管させておけば、下請取引でトラブルが発生した場合や公正取引委員会等からの調査指示が入った場合にスムーズに手続きを進められるからです。
- 下請事業者の名称
- 製造委託等をした日時
- 契約書記載の下請事業者による給付内容
- 下請事業者からの給付を受領する期日
- 実際に下請事業者から提供された給付内容(検査・変更・やり直しなどを含む)
- 下請代金の額・支払予定期日・実際に支払った期日・支払手段
- 原材料の有償支給に関する詳細
- 遅延利息を支払った場合は、その金額・支払日
4.下請法における親事業者の禁止事項11つ
下請法では、事前に下請契約にまつわるトラブルを回避するために、親事業者が遵守するべき禁止事項をルール化しています(第4条)。
親事業者に課されている禁止事項 | 詳細 |
受領拒否の禁止(第4条1項1号) | 下請事業者に過失がないのに受領を拒絶する |
下請代金の支払遅延の禁止(第4条1項2号) | 下請代金を期限までに支払わない |
下請代金の減額の禁止(第4条1項3号) | 契約で定めた下請代金を一方的に減額する |
返品の禁止(第4条1項4号) | 下請事業者から納入された物品等を受領後に返品する(ただし、物品受領後に瑕疵が発見されるなどの例外的なケースを除く) |
買いたたきの禁止(第4条1項5号) | 市場価格と比べて著しく廉価な価格設定をする |
購入・利用強制の禁止(第4条1項6号) | 親事業者の製品・原材料などを下請事業者に強制的に購入・利用させる |
報復措置の禁止(第4条1項7号) | 下請事業者が公正取引委員会等に通報した報復として契約上不利益な扱いをする |
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条2項1号) | 有償で原材料を支給した場合に、下請代金の支払期日前に原材料費を請求したり、下請代金から原材料費を控除・相殺する |
割引困難な手形の交付の禁止(第4条2項2号) | 一般の金融機関で使いにくい困難な手形を決済手段に設定する(手形期間が長い等) |
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条2項3号) | 下請事業者に協賛金・従業員派遣などを強制して経済的不利益を生じさせる |
不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第4条2項4号) | 下請事業者に帰責性が存在しないのに、親事業者が費用負担せずに給付内容の変更・やり直し等を強いる |
なお、「違法性の意識がなくても、下請法における禁止事項規定に抵触する行為が存在するだけで、下請法違反としてペナルティが科される可能性がある」という点について、親事業者は注意しなければいけません。
まとめ
下請法は、事業の性質上弱い立場に置かれる下請事業者を保護することによって、親事業者の取引の公正を促すことを目的とした法律です。
特に、働き方の多様化・副業の普及によって、知らずしらずのうちに下請法の適用を受ける取引をしているケースが増えています。
とはいえ、下請事業でトラブルが発生した場合には、対象取引・対象事業者の要件判断を厳密に行わなければいけません。
また、関係各所に問い合わせをする際にも、専門知識が求められるでしょう。
下請法違反をすれば親事業者は行政による介入を受けることになりますし、下請法違反が常態化した取引を強いられている下請事業者は、適正な利益を逃していることになります。
したがって、親事業者・下請事業者問わず、下請事業に関係してトラブルが発生した場合にはすみやかに弁護士等に相談することをおすすめします。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています