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労働審判の流れとは?従業員と調停成立を目指すポイントと弁護士に依頼するメリットを解説
会社と従業員との間で労働トラブルが発生すると、従業員側から労働審判を申し立てられることがあります。
労働審判は訴訟手続きとは異なる流れ・特徴で進行しますが、従業員側からの労働審判申し出を受けた場合、真摯に手続きに参加しなければ会社側にさまざまなデメリットが生じかねません。
そこで今回は、
- 労働審判の流れ
- 従業員が労働審判を申し出る具体的な事例
- 従業員に労働審判を申し出られたときに弁護士へ相談するメリット
などについてわかりやすく解説します。
労使間で紛争が生じた場合、早期解決を実現できなければ企業の社会的信用にかかわる事態に発展しかねません。
労働問題や労使交渉を得意とする弁護士へ相談のうえ、労働審判対応や労使トラブルの予防策についてアドバイスを貰いましょう。
1.労働審判とは
労働審判とは、「個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルについて、個別具体的な事情に即して、迅速・適正かつ実効的に解決するための手続き」のことです(労働審判法第1条)。
「裁判所において、裁判官と労働関係の専門家で組織する委員会が申立てのあった事件を審理し、調停成立による紛争解決の見込みがある場合には和解を促し、調停不成立の場合には労働審判によって紛争の解決方法を提示する」という流れで進められます。
労働審判自体は調停不成立の場面で登場するものですが、「申立てから調停の試み、調停不成立に至る一連の流れ」全体を総称して「労働審判手続き」とするのが一般的です。
労働審判手続きの特徴として、以下4点が挙げられます。
- 労働関係の専門家が関与する(労働審判官1名と労働審判員2名で構成する労働審判委員会)
- 訴訟手続きよりも迅速な紛争解決を期待できる(原則3回以内の期日で終了。平均審理期間は6日)
- 事案に即した柔軟な解決を期待できる
- 労働審判を経た判定内容には強制力があるので終局的な解決も期待できる
なお、労働審判の対象になるのは「個別労働関係民事紛争」だけです。
たとえば、解雇や懲戒処分の効力について争いがある事件や未払い残業代などの賃金請求に関する事件、退職金請求、解雇予告手当請求などが挙げられます。
これに対して、労働組合が当事者になる「集団労働関係紛争」や、公務員の雇用が問題になる「行政事件」は、労働審判手続きの対象外です。
2.労働審判の流れとは
労働審判手続きは以下の流れで進められるのが一般的です。
- 当事者からの申立て
- 労働審判官による期日指定と当事者双方の呼び出し
- 労働審判を申し立てられた側が答弁書等を提出する
- 労働審判手続き期日
- 調停が成立すれば紛争解決
- 調停が不成立なら労働審判
(1)申立て
労働審判手続きは、個別労働関係民事紛争の解決を図るために、当事者が裁判所に対して労働審判手続きの申立てをすることによって開始します(労働審判法第5条第1項、第2項)。
労働審判手続きの申立て先は「地方裁判所(本庁または一部の支部(東京地裁立川支部、静岡地裁浜松支部、長野地裁松本支部、広島地裁福山支部、福岡地裁小倉支部))」です。
申立てをする際には、以下の事項を記載した申立書と証拠書類等を提出しなければいけません(労働審判法第5条第3項、労働審判規則第9条)。
- 当事者及び法定代理人
- 申立ての趣旨及び理由
- 予想される争点及び争点に関連する重要な事実
- 予想される争点ごとの証拠
- 当事者間においてされた交渉その他の申立てに至る経緯の概要
なお、当事者からの申立てが不適法なものであるときには、決定により申立てが却下されます。
(2)期日指定・呼び出し
労働審判手続きの申立てが受理されると、労働審判官が労働審判手続き期日を定めて、事件の関係者を呼び出します(労働審判法第14条第1項)。
特別な事由がある場合を除いて、第1回の労働審判手続き期日は、「労働審判手続きの申立てがなされた日から40日以内」の日程が指定されます(労働審判規則第13条)。
また、労働審判手続きを申し立てられた相手方には、裁判所から申立書の写し・証拠書類の写しが送付されます(労働審判規則第10条)。
(3)答弁書等の提出
労働審判手続きの申立てが受理されると、裁判所は相手方に対して、答弁書を提出するように求めます(労働審判規則第14条第1項)。
答弁書の提出期限は「答弁書に記載された事項について申立て人が第1回期日までに準備をするのに必要な時間をおいた日時」が指定されます(同規則第14条第2項)。
答弁書には、以下の事項を記載しなければいけません(同規則第16条第1項各号)。
また、予想される争点に関する証拠書類が存在する場合には、答弁書への添付を要します(同規則第16条第2項)。
- 申立ての趣旨に対する答弁
- 申立書に記載された事実に対する認否
- 答弁書における主張内容を理由付ける具体的な事実
- 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
- 予想される争点ごとの証拠
- 当事者間においてされた交渉その他の申立てに至るまでの経緯の概要
つまり、(1)~(3)の流れを経て、当事者及び裁判所は、双方の主張する内容や証拠物をある程度理解した状態で第1回労働審判手続き期日当日を迎えるということです。
特に、従業員から労働審判を申し立てられたケースでは、相手方の主張を精査して反論を準備する必要があるので、会社側の負担は相当なものになります。
答弁書の提出期限までに反論を準備できなければ手続に会社側の主張が十分に反映されないので、申立書及び呼出状が届いたときには、すみやかに労働問題に強い弁護士に相談をして、答弁書の作成や調停に向けた準備に尽力してもらいましょう。
(4)労働審判手続き期日
指定された日時に労働審判手続き期日を迎えて、事件についての審理が非公開の形式で行われます。
労働審判手続き期日は、労働審判官(裁判官)1人と労働審判員2人で構成される労働審判委員会に、申立人・申立代理人・相手方・相手方代理人・その他関係者が参加します。
あらかじめ提出された申立書及び答弁書を踏まえたうえで、双方が主張を展開したり、相手方の主張に対して反論を加えたりする流れです。
そのほとんどは、その場で口頭で行われていくため、事前準備をしっかりして当事者自らが話せる状態を作っておくと同時に、代理人も適切に主張や質問などを挟んで行くことになります。
労働審判手続き期日は、原則3回以内で審理を終結しなければいけません(労働審判法第15条第2項)。
しかも、大半の労働審判事件では1回目から一定の結論の方向性が示されます。
そのため、事前にしっかりと証拠書類や相手の主張内容を予測した反論方法について準備をしておくべきでしょう。
(5)調停が成立すれば紛争解決
労働審判手続き期日では、労働審判委員会に提出された証拠や、職権で得られた証拠について、証拠調べが行われます。
その過程で、当事者間で話し合いによる合意形成が実現すれば、調停が成立したとして、その時点で労働審判手続きが終了します。
実際の労働審判手続きでは、当事者双方の意見を聴取したうえで、第一回の段階からでも労働審判委員会の心証が開示されることが多いです。
心証開示の内容を踏まえて、当事者双方がこのまま期日を重ねるのか、現段階で調停成立を落としどころとするのか判断します。
調停が成立した場合には、その内容を記載した調書が作成されます。
当該調書には拘束力があるので、たとえば、会社側に解決金の支払い義務が発生した場合には、調書の内容にしたがって義務を履行しなければいけません(調停成立を前提に作成された調書に違反した場合には、強制執行が実施される可能性があります)。
(6)調停不成立なら労働審判に移行
労働審判手続き期日を経て、会社と従業員との間で解決方法について合意を形成できなければ、調停不成立を理由に労働審判委員会が労働審判を行います。
審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続きの経過を踏まえて、審判内容が決定されます(労働審判法第20条第1項)。
労働審判に対して2週間以内に異議申し立てがなければ、労働審判の内容はそのまま確定します。
これに対して、労働審判に対して2週間以内に当事者から異議申し立てがなされた場合には、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行して裁判所の判断を仰ぐことになります。
3.労働審判を申し立てられたときに検討するべきこと
従業員から労働審判を申し立てられた場合には、すみやかに以下2点についてご検討ください。
- 労働審判の実績豊富な弁護士への相談
- 社内体制の抜本的な見直し
(1)労働審判に強い弁護士に相談する
従業員から労働審判を申し立てられた場合には、できるだけ早いタイミングで労働審判に強い弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題に強い弁護士の力を借りることによって、以下5点のメリットを得られるからです。
- 従業員の申立て内容を精査して反論内容を検討してくれる
- 答弁書提出期限までに反論内容を基礎付ける証拠を整理してくれる
- 手続き期日当日、適切に法的主張や当事者の供述が行えるようサポートしてくれる
- 会社側に不利な状況なら、現実的な解決金や示談条件を提示して早期の調停成立を目指してくれる
- 調停不成立で労働審判も不利な結果になっても、訴訟手続きで丁寧に主張立証を展開してくれる
労働審判で有利な状況を作り出すには、労働基準法や就業規則の内容を踏まえた実効的な反論を用意し、審判当日も柔軟な対応をしなければいけません。
申立書が届いてから答弁書の提出期限までは2~3週間程度の猶予しか与えられないことが多いので、すみやかに「会社側の労使紛争」を得意とする弁護士までお問い合わせください。
(2)社内体制の抜本的な見直し
従業員に労働審判を申し立てられたときには、請求内容を精査したうえで、社内体制に問題がないかを再確認する必要があります。
なぜなら、就業規則やその他制度の運用にミスがある状態が続くと、別の従業員から労働審判を申し出られたり、労働基準監督署に通報されたりするリスクに晒されるからです。
労働問題に強い弁護士に相談をすれば、問題が顕在化した労使紛争への対応だけでなく、「労使紛争を予防」するための社内体制構築についてアドバイスを期待できるでしょう。
まとめ
労働審判は、「労使紛争当事者双方の意見を反映した解決案を早期に実現すること」を目標に、スピード感を意識した流れで手続きが進められます。
そのため、労働審判委員会からの心証を悪くしないためには、答弁書の提出段階から十分な準備をし、期日当日の主張立証内容をあらかじめ整理しておく作業が不可欠です。
労働基準法や過去の裁判例、就業規則の内容に詳しくない当事者だけでは実効力のある反論内容を組み立てるのが難しいので、かならず労使紛争や労働審判の実績豊富な弁護士にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています