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決済・資金移動サービスと為替取引、資金移動業
他社間の取引の決済につき送金サービスなどを提供する会社の設立を検討している企業家の方、また、自社の取引の決済のためそのような子会社の設立を検討している会社があります。
当事務所でもそのような相談を受けることがあります。
このような場合に問題となるのは、A社がB社と取引をして、A社からB社に代金などの支払をする場合において、C社が提供する決済・送金に係る業務を通じて送金するスキームとするときは、C社の決済・送金に係る業務は、(収納代行、代理受領、あるいは代理振込み(以下、収納代行等)ともとらえられるところですが、)銀行法の「為替取引」に該当し、C社が銀行業の免許を受けなければならないのではないかという点です。
そこで、以下では、銀行法の「為替取引」の定義及び資金決済に関する法律(以下、資金決済法)の「資金移動業」について整理すると共に、今年(2019年)7月に公表された金融審議会報告を踏まえた最新の状況を説明します。
1、銀行法上の「為替取引」
(1) 銀行法の規定
銀行法においては、「為替取引」に当たる業務を行う場合には、原則として銀行業の免許が必要とされています(銀行法第2条第1項、同条第2項第2号、第4条第1項)。
しかし、どのような行為が「為替取引」に当たるのかについては、銀行法等においては定義がなく、解釈に委ねられています。
(2) 最高裁判所の解釈
為替取引とは何かという点につき、最高裁判所は、2001年3月12日の決定において、「同号にいう「為替取引を行うこと」とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」と判示しました。
(3)法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)
平成16年(2004年)頃には、金融庁から、ノーアクションレターで照会があった個別の一定の事例につき、例えば、「加盟店から弁済の受領行為(代金回収業務)を委任されている」ことから、「単に資金移動の仲介を委任されている銀行法第2条第2項第2号にいう「為替取引を行うこと」とは異なる」との回答がなされたケースもありました。
しかし、その後も、種々の収納代行等も為替取引として規制され得るのではないかという議論がありました。
2、資金決済に関する法律の制定
(1)資金移動業の創設
平成21年(2009年)には、資金決済法が制定され、1回の取引につき100万円に相当する額(以下、上限額)以下の資金の移動に係る為替取引は、銀行等でなくても、内閣総理大臣から登録を受けた者が資金移動業として行うことができるようになりました(資金法第37条、第38条、資金決済に関する法律施行令第2条)。
(2)将来の課題
ただ、平成21年(2009年)の資金決済法の制定に際しては、コンビニエンス・ストアによる収納代行や、運送業者による代金引換などについては、どのように扱うのかという議論も金融審議会において行われました。
そこでは、「判例は、いわゆる地下銀行(銀行法等に基づく免許を持たず、不正に海外に送金する業者のこと)を念頭においたものであり、収納代行サービス等はその対象にならないとの意見、金融庁の過去にノーアクションレターで収納代行は為替取引に当たらないとしているとの意見」等が出され、これに対し、「判例は広く為替取引をとらえており、収納代行サービス等が対象とならないとは解されないとの意見、金融庁の回答は個別事例について為替取引に当たらないとしたものであって一般的に収納代行サービス等を為替取引に当たらないとするものではなく、その回答が捜査機関や罰則の適用を含めた司法判断を拘束しうるものではないとの意見」等が出されました。
さらに、「たとえば、収納代行サービスについて、銀行法(為替取引)に抵触する疑義がある、サービスを提供する事業者が破たんした場合には収納を依頼した者に被害が生じる可能性がある等から制度整備を行うことが適当との意見に対し、為替取引に該当しない、支払人に二重支払の危険はない、利用者の利便を低下させる等から制度整備は必要がないとの意見があっ」たようです。
そこで、このように共通した認識を得ることが困難であった事項については性急に制度整備を図ることなく将来の課題とするが、これは利用者保護が十分であることを意味するものではなく、収納代行サービス等が銀行法に抵触する疑義がないことを意味するものでもないとされました(資金決済に関する制度整備について ―イノベーションの促進と利用者保護― 平成21年(2009年)1月14日金融審議会金融分科会第二部会)。
3、2019年(令和元年)金融審議会報告
資金決済法制定後も、収納代行等を規制することはビジネスを委縮させるものであるとの議論や、他方で、収納代行であるとして銀行法の規制を潜脱することは、利用者保護の観点から問題である等々の議論がありました。
(1)資金決済法制定時に将来の課題とされた収納代行等についての規制の方向性
上記のような状況の下で、2019年7月26日に公表された金融審議会「金融制度スタディ・グループ」の「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告 ≪基本的な考え方≫ (以下「報告」といいます。)では、
「この分野における状況の変化として、新たな「決済」手段・サービスの出現がある。例えば、いわゆる「割り勘アプリ」といった形で、「収納代行」の形式を とりつつ、実質的に個人間送金を行うサービスが提供されている。こうしたサービスの「機能」が「決済」に該当することは明らかであり、利用者資金の適切な保全や、「決済」の確実な履行等の必要性は、資金移動業者が提供する送金サービスと何ら変わることはなく、こうした「収納代行」については、資金決済法上の資金移動業にあたることを明らかにした上で、必要な場合については規制を及ぼすことが考えられる。他方で、「収納代行」にも様々な形態のものがあり、一律に規制対象とすることは適当ではない。」
との方針が示されました。
そして、例えば、大手コンビニエンス・ストアによる収納代行などは、
「債権者が事業者であり、かつ、支払人が「収納代行」業者に支払をした時点で債務の弁済が終了し、その後の「収納代行」業者の信用リスクは債権者である事業者が負担する(支払人に二重支払の危険がない)ことが確保されている場合には、既に一定の利用者保護は図られていると考えられる。加えて、こうしたサービスにはこれまで社会的・経済的に重大な被害は発生していないと考えられる。こうしたことも踏まえれば、現時点では、このような、利用者保護の観点から適切な対応が図られているといえる「収納代行」については、これまでと同様の扱いとすることが適当である」
とされました。
よって、既存のコンビニエンスストアによる収納代行等に新しい規制が導入される可能性は少ないのではないかと思われます。また、規制が導入されるものについても一律の硬直的な規制が導入されるわけではないであろうと考えられます。
ただ、報告がこれまで同様違法扱いとはしないと現時点で明示しているのは、これまで社会的・経済的に重大な被害は発生していないとされている既存サービスについてであり、それ以外のサービスについては明示がなく、今後、必要な規制が導入されることも考えられます。
(2)企業間における高額取引に係る決済等
①「高額」送金を取り扱うことができる新類型等
他方で、報告においては、「企業間における高額取引に関する決済など、上限額を超える送金に対する利用者のニーズが一定程度存在する」ことについても触れられています。
このため、「資金移動業に上限額を超える「高額」送金を取り扱うことができる新類型を設けることを検討する。また、当該新類型について、そのリスクを踏まえ、追加的に必要となる対応を検討する。」とされており、資金決済法に基づく資金移動業として新たな類型を位置づけることを検討していくこととされています。
具体的には、以下の三つの類型についてそれぞれ検討していくとされています。
- 「高額」送金を取り扱う事業者(第1類型)
- 現行規制を前提に事業を行う事業者(第2類型)
- 「少額」送金を取り扱う事業者(第3類型)
②第1類型についての対応
上記3つの類型のうち、最も相談の多い高額送金を取り扱う第1類型について説明します。
中間のサービス事業者が高額の資金を送金のため受け入れ、その高額の資金がすぐに受領すべき者宛てに送金されずに当該事業者のところに長期間とどまっているとなれば、まだ受領すべき側の手元に資金は届いていませんし、例えばその間に当該中間のサービス事業者が倒産するといった場合等には支払を行ったサービス利用者の側はもう一度支払を行わなければならないのか、滞留していた資金は返済してもらえるのか等、その間、当該資金についての決済・送金サービスの利用者にはリスクがあることとなります。
このため
・具体的な送金指図を伴わない資金は受け入れ不可とする
・運用、技術上必要とされる以上の期間を超えて資金を保持しないこととする
などの対応を取ることが検討されています。
また、企業間の高額送金等については、その履行が確保されない場合には、影響が大きいことから、履行を確保するためシステムリスク等の管理が重要であるとされています。
さらに、高額資金につき、マネーロンダリングやテロ資金対策についても国際的な要請に応じていくため、より厳格な体制の整備が求められるとされています。
まとめ
以上のように、今後、企業間の一定額以上の送金サービスについても法律上位置づけられ、必要に応じた規制がなされることが考えられます。
そして、そのような決済・送金サービスを行う事業については、個人間の送金の場合に比べても、送金の受け手の側が海外の企業であるなど、クロスボーダーの送金が多くなることも考えられます。
とすれば前述のようなマネーロンダリングやテロ資金根絶に対する国際的要請に応えていくため、クロスボーダーの送金の場合はより厳しい監督が行われる可能性も考えられなくはありません。
いずれにせよ、企業間の決済サービスのスキームの導入に当たっては、法的にどのような分類に当たるのかについて、今後注意していく必要があります。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています