企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
『中華人民共和国裁判官法』の修正についてわかりやすく解説
『中華人民共和国裁判官法』(以下、「裁判官法」といいます)は、1995年に公布され、2001年及び2017年の二回の修正を経た後、2019年4月23日にさらに修正されました。
今回の修正は(以下、「本修正」といいます)、近年の中国における司法改革の成果を法律の形で規定するために行われ、『人民法院組織法』、『監察法』、『刑事訴訟法』、『公務員法』等の司法改革に係る法律修正を受けたものです。
また、近年、中国において法廷秩序を乱し、又は裁判官を侮辱する事件も次から次へ発生しておりので、本修正は裁判官の職業保障を強化することを目的としています。
本修正においては、裁判官の権利義務、選任条件及び手続、管理、考査、職業保障等に関する内容が修正されています。
今回の修正された裁判官法は、主席令27号により、2019年10月1日施行されました。
今回は、本修正の主な内容を説明させていただきます。
第一 裁判官法の構成
修正された裁判官法は、総則、各章、付則の計8章、69条で構成されています。1995年の裁判官法により、本修正は、17章を8章に合併しており、総則(第1章)、裁判官の職責、義務及び権利(第2章)、裁判官の条件及び選任(第3章)、裁判官の任免(第4章)、裁判官の管理(第5章)、裁判官の評価、奨励及び懲戒(第6章)、裁判官の職業保障(第7章)、付則(第8章)で構成されています。
第二 修正の主な内容
1.総則について
(1)助理審判員が含まれていない
本修正により、中国裁判官とは、法によって国家審判権を行っている審判者といいます。
裁判官には、最高人民法院並びに地方各級人民法院及び軍事法院等の専門人民法院の院長、副院長、審判委員会委員、廷長、副廷長及び審判員が含まれていますが、助理審判員が含まれていません。
(2)裁判官は公正な立場を維持すること
「裁判官は、当事者及びその他の訴訟者を公正に扱うべきであり、あらゆる個人及び組織に対して平等に法を適用するものとします。」と「裁判官が案件を審理する際には、事実に基づき、法律を基準とし、客観的且つ公正な立場を維持するものとします。」
2.裁判官の職責、義務及び権利について
(1)職責
裁判官の職責について、修正前の裁判官法においては事件審理のみが規定されました。
本修正によって、裁判官の職責として、法に基づき犯罪人の引渡し、司法共助等の事件を処理することが定まれています。
また、裁判官は、職責の範囲内で、処理した事件に対して責任を負うことが明記されました(8条)。
(2)義務
裁判官の義務について、修正前の裁判官法においては、国家秘密及び裁判業務の秘密に対する秘密保持義務のみが定まれました。
本修正においては、裁判官が職務を遂行する中で知った商業秘密及び個人のプライバシーに関する情報に対して秘密保持義務がはじめて明記されました(10条)。
(3)権利
裁判官の権利について、本修正においては、裁判官の「職業保障」が添加され、「研修」や「辞職」の権利が削除されました(11条)。
3.裁判官の就任条件、選任及び任免制度について
裁判官としての法律職業者の専門能力を向上させるため、2015年、中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は、『国家統一法律職業資格制度の改善に関する意見』を公布し、法律職業者の範囲及び法律職業資格の条件を明確にしました。
当該意見は、裁判官、検察官、弁護士等の法律職業者になるために、国家統一法律職業資格の取得及び一定の学歴等の条件を要求しました。
当該意見の要求を受けて、本修正は、裁判官になるための条件も厳格化しました。
修正前の裁判官法によれば、裁判官になるための条件として、23歳以上、高等教育機構法学部卒業の学歴を有し又は法律専門知識を持ち、2年以上の法律業務に従事すること等が挙げられていました。
それに対し、本修正においては、裁判官になるための条件として、23歳以上という条件が削除された一方で、5年以上の法律業務に従事したこと(法律修士、法学修士又は法学博士の学位を取得した者は、それぞれ4年、3年まで)緩和できます。)が必要とされています(12条)。
なお、弁護士、法学研究者又は教育者は一定の条件を満たした場合には、裁判官として選抜されることもできます(15条)。
また、『司法体制改革の施行における若干問題に関する意見』の関連規定に基づき、本修正は、初任裁判官候補者の業務能力を審査するため、各省、自治区、直轄市には裁判官選抜委員会を設置するとした。
一方で、裁判官になられない者について、修正前の裁判官法により、本修正において「弁護士または公証人の職業資格が取消されたか、仲裁委員会に辞められた者」という規定が明記されました(13条)。
4.裁判官の管理について
本修正には、近年の司法改革に基づき、裁判官の職務を行政機関から切り離すため、裁判官の員数の管理制度及び専門的な職務序列管理が定まっています。
裁判官の等級が12級に分けられています。
それぞれは、筆頭大裁判官、一級大裁判官、二級大裁判官、一級高級裁判官、二級高級裁判官、三級高級裁判官、四級高級裁判官、一級裁判官、二級裁判官、三級裁判官、四級裁判官、五級裁判官です(26条)。
修正後の裁判官法においては、裁判官についての員数制の管理が行われています。
本修正によって、裁判官の員数は、事件数、経済社会の発展状況、人口及び人民法院の審級等の要素に基づき決定されています。
各省、自治区、直轄市には、総量規制、動態管理が執行されており、基層人民法院及び事件数が多い人民法院の業務の必要性が優先的に検討されています(25条)。
また、裁判官は、その他の公務員とは異なる専門的な職務序列に基づき管理されると明記されています。
これによって、裁判官の昇進ルートを拡大し、将来に待遇の改善等が求まれています。
5.裁判官の職業保障について
修正前の裁判官法は、裁判官の職業保障に関する規定が「支給、保険厚生」及び「退職」等の章節に散見されていました。
裁判官の権利を強化し、職務履行するので侵害を受けた場合の救済体制を確立するためには、本修正において、独立の「裁判官の職業保障」という章を新たに設けていました。
具体的には、人民法院内部に権益保障委員を設立し、裁判官の合法的な権益を保障することが定まれています(52条)。
また、法定の事由によらず裁判官を審理の職位から異動にならず(53条)、裁判官に法定義務の範囲外の事務を履行することを要求してはならない(54条)。
裁判官及びその近親者の安全が保護されることも明確に定まれています(55条、57条)。
6.職業の回避について
修正前の裁判官法において、独立の「職業の回避」という章が設けられました。
本修正には、その章が削除されましたが、内容が保存されています。
裁判官として、次に掲げている状況にあって、職業の回避をするものとします。
- 裁判官の間で夫婦関係、直接的な血縁関係、3世代間の血縁関係及び密接な関係がある場合、以下の立場は同時に保持されてはいけません。
①同じの人民法院の院長、副院長、審理委員会委員、廷長、副廷長
②同じの人民法院の院長、副院長、裁判官
③同じの裁判廷の廷長、副廷長、裁判官
④上下級の人民法院の院長、副院長
- 裁判官の配偶者、両親又は子供が次のいずれかの状況にあって、裁判官は職業の回避をするものとします。
①裁判官が所属している人民法院の管轄内における法律事務所には、パートナーまたは設立者としての場合
②裁判官が所属している人民法院の管轄内において、代理人又は弁護士として働くこと、若しくは訴訟の当事者に他の有料の法的サービスを提供すること
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています