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「中国契約法」についての紹介
中国における「契約法」(以下、「中国契約法」といいます。)の、中国語原文表記は、「中华人民共和国合同法」で、1999年3月15日に第9期全国人民代表大会第2回会議において採択、公布され、1999年10月1日に施行されました。
中国契約法は、中華人民共和国での商業取引において、契約当事者の利益及び権利並びに市場取引の保護を図る法律です。
今回は、この法律に関連する規定を説明させていただきます。
1.第一 中国契約法の構成
中国契約法は、中国における一番重要な民事上の法律として、商業取引においてだけではなく、日常生活でもよく使用されています。
中国契約法は、総則(総論)、分則(各論)及び付則の計23章、428条で構成されています。
分則(各論)において、典型契約の種類が順番に定められています。
中国契約法では、現在15種類の典型契約が定められています。
- 「売買契約」(第9章、第130条から第175条)
- 「電気・水・ガス・熱供給契約」(第10章、第176条から第184条)
- 「贈与契約」(第11章、第185条から第195条)
- 「金銭貸借契約」(第12章、第196条から第211条)
- 「賃貸借契約」(第13章、第212条から第236条)
- 「ファイナンスリース契約」(第14章、第237条から第250条)
- 「請負契約」(第15条、第251条から第268条)
- 「建設工事契約」(第16章、第269条から第287条)
- 「運送契約」(第17章、第288条から第321条)
- 「技術契約」(第18章、第322条から第364条)
- 「寄託契約」(第19章、第365条から380条)
- 「倉庫保管契約」(第20章、第381条から第395条)
- 「委任契約」(第21章、第396条から第413条)
- 「取次契約」(第22条、第414条から第423条
- 「仲介契約」(第23章、第424条から第427条)
2.第二 中国契約法に関する司法解釈
中国契約法が施行されてから、次々に現れた新しい社会状況について、司法の場ではそれに適応した条文が足りないといわれていました。
その上で、最高人民法院は中国契約法の適用における様々な問題に対して、関連する解釈をしました。
最高人民法院の今までの主な解釈は、以下のとおりです。
- 最高人民法院の『中華人民共和国契約法』の適用における若干問題に関する解釈(一)
- 最高人民法院の『中華人民共和国契約法』の適用における若干問題に関する解釈(二)
- 最高人民法院の建設工事施工契約紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈(一)
- 最高人民法院の建設工事施工契約紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈(二)
- 最高人民法院の技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈
- 最高人民法院の国有土地使用権に関わる契約紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈
- 最高人民法院の売買契約紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈
- 最高人民法院の国有土地使用権に関わる契約紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈
- 最高人民法院の民間貸借事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定
- 民事権利侵害による精神的損害賠償責任の確定に係る若干問題に関する解釈
- 「渉外民事関係法律的用法」適用の若干問題に関する解釈(一)
3.第三 契約の無効
中国契約法の規定や解釈では、当事者は、法により自らの意思によって契約を締結する権利を有し、いかなる部門や個人も不法に交渉してはならないこととされています。
もっとも、中国契約法52条により、下記に挙げる事由のいずれかに該当する場合には、契約は無効となります。
- 一方が詐欺、脅迫の手段により契約を締結し、国家の利益を損なうもの(1号)
- 悪意で通謀し、国家、集団又は第三者の利益を損なうもの(2号)
- 合法な形式により不法な目的を隠すもの(3号)
- 社会の公共利益を損なうもの(4号)
- 法律、行政法規の強制規定に違反するもの(5号)
上記の52条5号に関連する規定は以下の通りです。
(1)次に掲げる民事行為は無効とする(民法通則第58条)
(1号)民事行為無能力者が行ったもの。
(2号)法の規定により、制限民事行為能力者が独立して行えないもの。
(3号)一方が詐欺、脅迫又は相手方の弱みにつけこみ、相手方の真意に反して行わせたもの。
(4号)悪意をもって通じ、国家、集団又は第三者の利益を害するもの。
(5号)法律又は社会公共の利益に反するもの。
(6号)適法な形式で不法な目的を覆い隠したもの。
無効な民事行為は、行為の初めから法的拘束力を有しない。
(2)強制規定の定義
中国契約法第52条第5号に規定する「強制規定」とは、効力的強制規定を指す(「最高人民法院の『中華人民共和国契約法』の適用における若干問題に関する解釈(二)」第14条)。
(3)所有権又は処分権を有していなかったことを理由に契約の無効を出張した場合
当事者の一方が売主が契約締結時に目的物について所有権又は処分権を有していなかったことを理由に契約の無効を出張した場合、人民法院はこれを支持しない。売主が所有権又は処分権を取得できなかったために目的物の所有権を移転することができず、買主が売主に対し違約責任の負担を要求し、又は契約の解除を要求し、かつ損害賠償を出張した場合は、人民法院はこれを支持しなければならない。(最高人民法院の売買契約紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈第3条)。
中国契約法第53条は、免責条項の無効について以下の条文を定めています。
契約における次の各号に掲げる場合に係る免責条項は、無効とする。
- 相手方の人身に傷害を与えた場合(1号)
- 故意又は重大な過失により相手方の財産に損失をもたらした場合(2号)
中国契約法第53条に基づき、契約において上記のような免責事項を定めた場合には、免責条項は無効となりますが、その他の条文に影響は及ぼしません。
中国契約法第58条は、 契約が無効となった場合の義務を以下のとおり定めています。
契約が無効となり、又は取り消された後、当該契約により取得した財産は、これを返還しなければならず、返還が不能であり、又は返還の必要がない場合は、金銭に換算し補償しなければならない。
過失のある一方は、相手方のこれにより被った損失を賠償しなければならず、双方ともに過失がある場合は、各自が相応の責任を負わなければならない。
4.第四 違約責任
中国契約法においては、責任の負担方法について主に以下の5種類に定められています。
- 履行継続請求(第107条)
- 救済措置の採用(第107、119条)
- 損害賠償(第112、113条)
- 違約金(第114条)
- 手付金(第115条)
中国契約法における責任の負担方法の理解には、それぞれ注意事項があります。
(1)履行継続請求について
①金銭債務については無条件に継続履行を請求することができますが、非金銭債務については、履行継続を請求することができない事由もあります。
②契約書に継続履行請求条項を設定する際には、継続履行の可能性又は必要性についてきちんと検討する必要があります。
(2)救済措置の採用について
①当事者は、法律により許される範囲内に限り、自らにとって望ましい救済措置を選択し、契約書に記載することが推奨されます。
②一方が違約した後に、相手方は適当な措置を講じ、損害拡大を防止しなければなりません。
適当な措置を講じなかったことにより損害が拡大したときは、拡大した損害につき損害賠償を請求することができません。
③当事者が損害拡大を防止するために合理的に支出した費用は、違約した当事者の負担となります。
(3)損害賠償について
①中国契約法に基づき、違約当事者による損害賠償の対象には、実損失及び得べかりし利益の両方が含まれます。
実損失とは、違約当事者の違約行為により、違約していない当事者に生じた損失をいい、契約履行のために支出した費用及び損失拡大の防止のために支出した合理的費用等の直接又は間接的損失が含まれます。
得べかりし利益の損失とは、当事者が契約を履行する前においては発生しないけれども、契約が適切に履行されれば、当事者が取得することを期待することができる財産上の損失のことをいいます。
②当事者の一方が契約上の義務を履行せず、又は契約上の義務の履行が契約の定めに合致せず、相手方に損失を与えた場合は、損失の賠償額は、違約によって生じた損失に相当するものでなければならず、契約履行後に得べかりし利益を含むが、契約に違反した一方が契約締結時に契約違反によりもたらされる可能性があると予見し、又は予見すべき損失を超えてはならない(中国契約法第113条)。
(4)違約金について
中国契約法における違約金には、補償性及び懲罰性の2つの性質がありますが、最高人民法院の司法解釈に基づき、違約金は主に、損失の補償であり、違約した当事者に対する懲罰的性質は、二次的なものとなっています。
よって、当事者間で約定した違約金が実際の損失に比べ過度に高い場合には、人民法院がその差額を合理的に調整することがあり、当事者間の自由な設定に完全に委ねられることはありません。
違約金は、損害賠償請求と併用することが可能です。
しかしながら、両者を併用する場合には、損失を被った当事者の実際の損失を賠償責任の最高限度額としなければならず、損失を被った当事者は、実際の損失を超える補償を獲得することはできません。
(5)手付金について
中華人民共和国担保法第89条は、手付金について以下のとおり定めています。
一方当事者が他方当事者に対して手付金を交付して債権の担保とすることを当事者は約定することができる。
債務者が債務を履行した後、手付金は代金に充当され、又は回収されなければならない。
手付金を交付した当事者が約定に係る債務を履行しない場合、手付金の返還を要求する権利を失い、手付金を受領した当事者が約定に係る債務を履行しない場合、手付金を2倍にして返還しなければならない。
また、契約法第116条は、手付金について以下のとおり定めています。
当事者が違約金を契約で定め、手付金も契約で定めた場合において、一方が違約したときは、相手方は違約金又は手付金の条項を選択して適用することができる。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています