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Best Efforts と Reasonable Efforts

法的義務の有無と程度の違い

2020年4月10日
Best Efforts と Reasonable Efforts

1.  はじめに

企業の法務部や海外営業の方達にとって、Best EffortsやReasonable Effortsは英文契約でよく使用される馴染み深いフレイズだと思います。
例えば、shallやwillだと目的達成の法的な義務を負うので、Best Effortsや Reasonable Effortsであれば法的義務を負う訳ではなく、単に努力するだけで責任を果たしたことになり法的責任を追及されることはないだろうと考えて、shallやwillに続けてuse/make its best/reasonable efforts toを付記したりしてカウンター・ドラフトを出すことがあると思います。

 

さて、果たしてBest Effortsや Reasonable Effortsにすれば、法的義務を負わず、単に努力するだけで責任を果たしたことになって法的な責任を追及されることはないのでしょうか。

 

以下において、Best Effortsや Reasonable Effortsというフレイズによって負うことになる不確実な法的な責任の内容を明らかにし、企業の法務部等の部員の方達が英文契約書でBest Effortsや Reasonable Effortsを使うまたは使ったときの注意点を整理するのが本項の目的です。

2.  Best Efforts、Reasonable Efforts等の意味の解釈

まず、Best Efforts、Reasonable Effortsなどの用語は、どのような意味か見てみましょう。

 

例えば、Party A shall obtain the approval of the authority. の場合は、契約当事者Aは当局の許可を取得する義務を負います。許可を取得できなければ義務を果たしたことになりません。

一方、Party A shall use/make its best/reasonable efforts to obtain the approval of the authority. の場合、契約当事者Aは当局の許可を取得する義務は負いません。
許可を取得できなくても、それだけでは義務を果たさなかったことにはなりません。

但し、当局の許可を取得するために努力する義務を負います。
その努力義務の内容は一般的にそれぞれ以下のように解されています。

 

(1)Best Efforts(最善の努力、最大限の努力)

出来うるあらゆる全ての手段を講ずる義務。出来うるあらゆる全ての手段を講じた事実の証明ができない場合、契約違反の責任を負う可能性があります。

 

(2) Reasonable Efforts(合理的な努力)

出来うる合理的な全ての手段を講ずる義務。準拠法によっては、出来うる全ての手段を講ずる義務。
後者の解釈では上記(1)のBest Effortsと同じ義務を負うことになります。

 

(3) Commercially Reasonable Efforts(商業的に合理的な努力)

商業的、商取引上、または、その業界で、合理的または相当と考えられる手段を講ずる義務。
合理的な手段か否かの判断は商取引や業界の常識で判断する他ないので、上記(2)のReasonable Effortsとの違いは曖昧です。

3.  Best Efforts、Reasonable Effortsなどの各国・州の法的義務の程度の違い

例えば、M&A案件の買収契約書では、買収会社は(関係各国の)独禁当局のクリアランスを取ること、一方、買収対象会社は既存契約書におけるchange of control条項に基づき債権者など相手方当事者から契約不解除の同意を得ることなどの義務規定を入れます。
そして、契約書の後半で、通常、これらの目的達成を含め多数の事項がクロージングの条件として規定されます。
しかし、これらの目的の達成はいくら努力したところで自力だけで達成できる性質の義務ではありません。
第三者の判断に大きく依存します。そこで、各当事者の義務条項のうちこれらの義務についてはEfforts clauseとすることがあります。

この場合に、各当事者としては、どこまで、何を実施すれば努力義務を尽くしたことになり、責任を免れるのか必ずしも明確ではありません。
そこで、群盲象を評すの感は拭えませんが、以下においてできるだけの説明を試みたいと思います。

(1)Best Efforts

Best Effortsの義務については、アメリカでは州によって判例の理解や義務の程度が異なります。
一般的には、目的(上記の独禁当局のクリアランス取得や契約の相手方の契約不解除の同意取得)を達成するために可能な、一切の努力を行うこと、および、可能なあらゆる財源を使うこと[1]をいう、と解されています。[2]
なお、Reasonable Best Effortsは、Reasonable Effortsでなく、Best Effortsと同義と解されていることに注意して下さい。

 

各州の法や判例を逐一見て行きますと泥沼に入るような気分になりますので、ここでは皆さんが使うことが多いであろうデラウエア州、ニューヨーク州、それとカリフォルニア州とを見て行きましょう。

 

デラウエア州法では、Best Efforts clauseは、必ずしもReasonable EffortsやReasonable Best Effortsと何らかの異なる意味がある訳ではないとされています。
従いまして、裁判所は契約書の条項がBest EffortsかReasonable Effortsかに係わらず、具体的な事実に基づきケースバイケースで判断することになります。
つまり、類似案件についての判例調査等が重要です。

 

ニューヨーク州では、Best EffortsとReasonable Effortsは異なる義務の基準(different commitment standard)であるとする判例[3]がある一方、デラウエアのように裁判所がケースバイケースで判断することがあり、Best EffortsとReasonable
Effortsには意味のある違い(meaningful difference)はないという判例が幾つもあります。[4]
一方、Best Efforts provisionについて実施すべき手段を判断する客観的な基準がない限り執行力がないものとみなす場合もあります。
契約書上どちらの立場かにより観点が異なりますが、ドラフティングに注意が必要です。

この2州を見ますと、結局、Efforts clauseの解釈においては、具体的な契約の内容(契約書全体)、条項のワーディング(当該Efforts clause)、文脈および努力義務を実施する手段を取り巻く具体的な状況(契約書外の背景事実や目的を達成できなかった事実関係)が大きな影響を持つと言えます。

 

ただし、カリフォルニア州ではBest EffortsとReasonable Effortsは最高裁判所(Supreme Court)によって解釈されておらず、高裁(Courts of Appeals)判例でのみ解釈されています。
高裁判例にしても、管轄区毎にBest Effortsを解釈している区もありますが、解釈していない区もあります。
また、高裁管轄区の間でもBest Effortsの解釈には対立があり、例えば、第2区は契約の誠実(good faith)義務と同義だと解釈していますが[5]、第3区は受託者義務(fiduciary duty)未満、誠実義務よりは高い義務であると解釈しています[6]

 

イギリスでは、effortsの代わりに、endeavours(米語だとendeavors)という単語が使われるのが通常ですが、両者の単語自体には意味の解釈に違いはないとされています。
イギリスでも、Best Endeavoursは目的を達成するために出来うる全ての手段を取ることと解されています。
しかし、その程度は、合理的な人その状況下合理的に可能であると判断されること[7]全て行うことと解釈され、アメリカでのReasonable Effortの意味に近い解釈がなされています。

 

このため、例えば、努力義務を果たすために必要な合理的な社内の財源や資源を使うことが要求されます。
逆に言いますと、会社の経営を危うくするような多額の費用を使うことまでは要求されません。
また、株主総会の決議を得る努力義務を負った場合で、その決議を得ることが会社または株主の最善の利益
(best interests)ではない状況下(in the circumstances)においては、努力義務を負いません。[8]
また、目的達成のために訴訟を提起したり、判決に対して控訴する義務を負うことがありますが、敗訴の可能性が見込まれたり、合理的でないなどの状況下ではそこまでする義務を負いません。[9]

 

(2) Reasonable Efforts

アメリカに於けるReasonable Effortsの義務については、上記(1)のBest Effortsで説明しましたように、Reasonable EffortsはBest Effortsよりも法的義務のレベルが低いとは言えますが、逆と解釈できる判例がある州もあります。
また、州により法や判例が異なり、また州によっては判例が統一されていないところもあります、かつ、州によってはBest EffortsかReasonable Effortsかの外に、具体的な条項や事実関係に基づいてケースバイケースで判断されることがあります。

 

イギリスでは、Reasonable EndeavoursはBest Endeavoursよりも法的義務の程度が低いと言えますが、より不明確で予測可能性が低い概念とも言えます。
契約の相手方に対する契約上の努力義務の重要性(the weight of their contractual obligation)と自社と第三者との関係、評判(reputation)、目的達成のための費用など全てのビジネス上の事情(all relevant commercial considerations)とのバランスにより判断され、その判断においては、目的達成の可能性も最も重要なファクターとされます。[10]
しかし、努力義務を負う者はそのビジネス上の利益を犠牲にすること(to sacrifice its own commercial interests)までは要求されません。[11]

 

4.  最後に

以上を踏まえて、shallやwillを避けて条項に記載された目的達成はできなくても、努力すれば義務を果たしたことにするためにefforts/endeavors clauseを使う場合に、注意すべき点を以下に挙げます。

 

① まず確認しなければならないのは、準拠法です。その上で、その国または州の判例や実務家の見解を調べること。判例(case law)が不確定な場合は有力な実務家(practitioner)の見解を調べます。そして、当該契約書のケースを当てはめます。

②  準拠法によっては判例法(case law)上、殆ど違いがない国や州がありますが、できるだけBest Effortsは避けて、
Reasonable EffortsかCommercially Reasonable Effortsを使うこと。

③ 努力義務の内容を具体的に列挙すること(義務の明確化)。

④ 講じた全ての手段につき証拠を取っておくこと。

 

法務部として特に重要なのは、上記③のドラフティングです。

 

自社が努力義務を負うように修正し、今まで安心してBest EffortsやReasonable Effortsというフレイズを使って特に気にもしていなかったのに、ここに来て、講ずべき手段の範囲が曖昧で何をしたら努力義務を果たしたと言えるのか不安になって来たかも知れません。
あらゆる手段と言ってもどこまでやったら良いのか分からないし、同様に合理的な手段と言っても具体的にどこまでやったら良いのか分かりませんね。

 

その不安を取り除く方法としては、相手方と協議して講ずべき手段を具体的に(できれば限定)列挙することです。
相手方との交渉次第ですが、(例示)列挙にして最後にバスケット条項のような文言を入れるのはできれば避けるべきです。
しかし、講ずべき手段を列挙しないよりはましです。
具体的に列挙された手段は全て尽くしたとの主張が可能となり、事実上ですが立証責任を対手方に転換することができます。

 

最後に、Efforts/Endeavors clauseは各国・州でその義務のレベルや範囲につき未だに議論が絶えませんが、基本的に執行可能(enforceable)であり法的手段が取られる可能性があることを認識し、安易に考えず、しっかりとドラフトすることが必要です。

 

[1] “Although the case law on the subject is mixed, most practitioners take the view that an obligation to use best efforts includes the obligation to make every possible effort and to use all possible financial resources, to achieve the desired goal.”
- Charles M. Fox, Working With Contracts: What Law School Doesn’t Teach You.

[2] 可能なあらゆる財源を使用すると言っても、判例は破産するまで財源を使えとは言っておらず、合理的な考慮という限度があります(Bloor v. Falstaff Brewing Corp. 1979(事業譲渡の買主の販売数量プロモーション・維持努力義務)など)。 一方、不採算性(unprofitability)や財務的不利益(financial disadvantage)は理由とならないという判例もあります(Showtime Networks Inc. v. Comsat Video Enterprises, Inc. 1998(ディストリビューターのプロモーション・顧客維持努力義務)など )。

[3] LTV Aerospace and Defense Company v. Thompson-CSF S.A.(1993)

[4] Kroboth v. Brent (1995), Timberline Development v. Kronman (2000)

[5] Brawley v. Crosby Research Foundation (1946)

[6] California Pines Property Owners Association v. Pedotti (2012)

[7] “… best endeavours must at least be the doing of all that a reasonable person could reasonably do in the circumstances.
” Pips (Leisure Productions) Ltd v Walton (1982).

[8] Terrell v Mabie Todd and Co. Ltd (1952), Rackham v Peek Food (1990).

[9] Malik Co. v Central European Trading Agency Ltd (1974).

[10] “the chances of achieving the desired result would also be of prime importance” (UBH(Mechanical Services)
Ltd v Standard Life Assurance Company. 1986)

[11] P&O Property Holdings Ltd v Norwich Union Life Insurance Society (1993).

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士斜木 裕二
国際法律事務所、大手メーカー等の法務責任者を経て、2018年ベリーベスト法律事務所に入所。国際カルテルなどの競争法、国際・国内商取引一般、国家プロジェクト、M&A, JV会社設立等の国際投資案件、グローバルでのグループ子会社の法務体制やコンプライアンス体制、危機管理体制の構築などを手掛る。
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