企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
中国会社法司法解釈(五)ー 中国律師が分かり易く解説
2019年4月22日に行われた、中国最高人民法院審判委員会第1766回会議において、「最高人民法院による<中華人民共和国公司法>の適用における若干問題に関する規定(五)」(以下、「会社法解釈(五)」という)の法案が可決され、2019年4月29日から施行されました。
本会社法解釈は最高人民法院が会社法上の一部問題についての公式的な解釈です。
裁判実務において解釈基準となり、本会社法解釈の実施によって、企業(外資企業を含む)株主権益が更に保護されることを期待できます。
会社法解釈(五)の条項は、合計6条あります。
主に関連取引契約の無効や取り消し、董事職務の解除と離職補償、会社利益配当の時限、有限責任公司株主の分岐の解決メカニズムと原告のうち小数株主の調査・証拠取得申請書の形式面の要求などの問題に対する規定について制定されました。
本稿では、会社法解釈(五)について、逐条解説します。
1.条文と解読
(1)会社法解釈(五)第一条
①条文
《中華人民共和国会社法》を正しく適用する為、人民法院の審判の実践と合わせて、株主権益保護などの紛争案件の法律適用問題について以下の規定が制定されました。
第一条 関連取引が会社に損害を与えた場合で、会社が、会社法第二十一条の規定に基づき、支配株主、実際支配人、董事、監事、高級管理者に対し、その損害の賠償を請求する訴訟を提起したとき、被告において当該取引が情報公開を履行し、株主会または株主総会の同意を得たなどの法律、行政法規または会社定款に規定したプロセスを経たことのみを抗弁とする場合、人民法院はその抗弁を支持しない。
会社が訴訟を提起していない場合、会社法第百五十一条第一項に規定する株主は、会社法第百五十一条第二項、第三項の規定に基づき、人民法院に訴訟を提起することができる。
②解説
中国《会社法》第二十二条第二項は、「株主会または株主総会もしくは董事会の招集手続、決議方法が法律、行政法規または会社定款に違反し、もしくは決議内容が会社定款に違反する場合、株主は決議がなされた日から六十日以内に、人民法院にこれを取り消すように請求することができる」と規定しています。
そのため、会社または株主が関連取引によって会社が損害を受けたと考える場合に、損害賠償を求める訴訟を提起するには、通常は先に決議取り消しの訴えを提起する必要があります。
しかし、この取消権の訴訟提起期間は60日間しかありません。
この訴訟提起期間が過ぎてしまうと、関連決議は合法かつ有効的なものとみなされ、会社の損害賠償請求訴訟における関連取引の違法性の証明は難しくなります。
本条により、株主総会で決議が可決されたことからは直ちに関連取引が合法的であるという結論を導けないことを明確に規定し、株主代表訴訟として提起可能なものとして盛り込み、多数株主による決議を阻止できない小数株主の権利を強化しました。
また、本条は、取引が相当程度履行されていたとしても、結果として、株主間で不公平な結果となったり、会社に損害を与える場合、会社は支配株主等の関係者の損害賠償責任を主張できます。
同時に、株主代表訴訟の適用範囲を関連取引契約行為まで拡大し、関連取引契約に無効または取消事由が存在する場合であって、会社が訴訟を提起しない場合、原告適格が認められる株主は法律に則り関連取引契約が無効であることの確認、または当該契約の取消しを請求できると規定されています。
(2)会社法解釈(五)第二条
①条文
第二条 関連取引契約に無効又は取消事由が存在する場合で、会社が契約の相手方に訴訟を提起しないときは、会社法第百五十一条第一項に規定する株主は、会社法第百五十一条第二項、第三項の規定に基づき人民法院に訴訟を提起することができる。
②解説
中国《会社法》第百五十一条は株主代表訴訟に関する条項であり、《会社法》第百四十九条に規定する「董事、監事、高級管理者が会社職務を執行するに際し法律、行政法規または会社定款に違反し、会社に損害をあたえた場合、損害を賠償する責任を負う」に対応する条項です。
すなわち、株主代表訴訟は、通常、会社に損害が発生した後でないと提起できませんでした。
本条はこの株主代表訴訟の範囲を関連取引契約の無効、取消事由が存在する場合にまで拡大しました。
これにより、株主代表訴訟の原告適格が認められる株主は、損害が未だ発生していなくとも、契約の無効確認または契約の取り消しができるようになりました。
(3)会社法解釈(五)第三条
①条文
第三条 董事の任期満了前に株主会または株主総会の有効決議により解任された場合で、董事がその解任が法律的効力を生じないと主張するときは、人民法院はこの主張を認めない。
董事が解任された後、解任によって生じた損害について会社と紛争が生じ、董事が訴訟を提起した場合、人民法院は法律、行政法規、会社定款の規定または契約の約定に基づき、解任の原因、残存任期期間、董事の報酬などの要素を総合考慮し、損害の賠償及び合理的賠償金額を決定する。
②解説
本条は、投資者と発起人との対立という会社の膠着状態(デッドロック状態)において重要な役割を果たします。
一部の企業は数回の追加投資を経て、発起人の持ち株比率と議決権の優位性はなくなりますが、依然として会社の肝心な情報、技術をコントロールしている可能性があり、ひいては多くのケースでは一部の発起人が会社実印、帳簿を強制的に占有することも少なくありません。
このような膠着状態に対し、本条は改めて、株主(総)会こそ会社の最高権力機関であるという「会社法」の規定を明確にしました。
会社法解釈(五)第三条は、会社はいつでも董事を理由なく解任できることを規定しました。
同時に、会社による董事の理由なき解任とそれによって被った董事の損害賠償請求権を規定し、董事と会社との関係を明確にしました。
董事の解任を原因として会社と損害賠償について紛争が発生した場合、人民法院の審理は法律、法規、会社定款の規定と契約の約定に基づいて様々な要素を総合考慮し、賠償するかどうか及び賠償の合理的な金額を決めることを規定し、人民法院にこのような案件を審理する際の自由裁量権の行使を指導しました。
(4)会社法解釈(五)第四条
①条文
第四条 株主会または株主総会が利益配当の決議をしてから、会社は決議に明記された期限までに利益配当を完了しなければならない。期限が明記されていない場合は会社定款の規定に準ずる。決議又は定款のいずれも期限を規定していない若しくは期限が一年を超える場合、会社は決議がなされた日から一年間以内に利益配当を行わなければならない。
決議において明記した利益配当の完了期限が会社定款の規定する期限を超える場合、株主は、会社法第二十二条第二項の規定に基づき、人民法院に対し、当該決議の期限についての規定の取り消しを請求できる。
②解説
会社法解釈(五)第四条に会社の利益配当の期間制限が規定されました。
株主は会社の投資者であり、法律により株主の権利を守ることは、ビジネス運営環境を法的に保護する前提であり基礎と言えます。
少数株主は持ち株比率の限界から、会社において弱い地位に置かれます。
会社法解釈(五)第四条は、少数株主の利益の為に、まず利益配当請求権に着眼し会社株主の権利を守ってくれます。
利益配当請求権とは、株主が出資または持ち株比率により会社利益の配当を請求する権利があるということをいいます。
既に会社法司法解釈(四)で、株主利益配当請求権に相応の司法的救済を与えていましたが、会社法解釈(五)第四条はさらに一歩踏み込んで会社の利益配当期間制限に対する要求を提出し、遅くとも利益配当の決議がなされた日から一年以内に利益配当を完了しなければならないと明確にし、株主利益配当請求権を確実に徹底させ、株主の権利を充分に保護するものになりました。
(5)会社法解釈(五)第五条
①条文
第五条 人民法院は、有限責任会社における株主間の重大な紛議案件を審理する場合、和解を重視するべきである。当事者が下記方法で解決することに合意し、法律、行政法規の強行規定に違反しない場合、人民法院はこれを認めるべきである。
(一)会社が一部の株主の株式を買い戻す。
(二)他の株主が一部の株主の株式を譲り受ける。
(三)第三者が一部の株主の株式を譲り受ける。
(四)会社減資。
(五)会社分割。
(六)その他の紛議を解決でき、会社の正常な経営を回復させ、会社の解散を回避できる措置。
②解説
「会社法」第七十四条は、有限責任会社が株主の株式を買い戻す場合について、以下のとおり規定しています。
「下記のいずれかに該当する場合、株主会の当該決議に反対票を投じた株主は、会社に対し、合理的な価格でその株式を買い取るよう請求できる。
- 会社が五年連続して株主に利益配当していないが、その五年間は連続的黒字且つこの法律の定める利益配当条件を満たす場合。
- 会社合併、会社分割、重要財産を譲渡した場合。
- 会社定款に規定する会社存続期間の満了、または定款に規定している他の解散事由が生じ、株主会決議により、定款を変更し、会社を存続させた場合。」
従って、上記以外の場合、株主は通常会社に株式の買い戻しを請求できません。
本条は、買い戻しの範囲を「重大紛議案件」まで拡大し、最大限に会社と株主間における重大な意見の隔たりの対策メカニズムを確立しました。
(6)会社法解釈(五)第六条
①条文
第六条 本規定は2019年4月29日から施行する。
本規定施行後、結審していない案件は本規定を適用する;本規定の施行前に結審した案件、又は審判監督プロセスにより再審理に付された案件は、本規定を適用しない。
当院が以前公表した司法解釈と本規定とが一致しない場合は、本規定に準ずる。
2.まとめ
会社法司法解釈(五)は「会社法」に対し部分的な補足と見直しをしたにとどまりますが、裁判実務においては重大な現実的な意義と指導的な意義があります。
今年(2019年)3月の第十三回全国人民代表大会第二次会議では、すでに表決で「外商投資法」(中国外資投資規制 – その歴史と昨今の動向)が可決されました。
これは、中国が更なる高いレベルの対外開放に突入したことを表し、今回の司法解釈(五)の打ち出しは、対外開放への要求をさらに拡大し、外国投資者の中国投資の権益への保障を強化することを意味しています。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています